バレッタ ページ12
「好きだって言ってるのに」
「私だって博喜さんが好きなの」
傷つくなら、最初から好きだと言わなければ良かったのだ。そもそも、彼女に恋をしなければ良かった。だけどそれはもう後の祭り。
「そう簡単には諦めてあげない」
頬に触れようと手を伸ばして、嫌そうに顔を歪める彼女を見てためらった。
「博喜が鈍感で良かった」
つばさは司咲の高く結われた髪に触れた。
「やっぱり、かわいい。それ、あげるね」
両手で髪に触れるとつけられたものを外した。小さなハートと星が散りばめられたバレッタだった。
「……困る」
眉を下げる彼女に、つばさは笑顔を向けた。その笑顔が悲しそうだった。
「司咲ちゃんにもらってほしい。使ってほしい。返されても困る」
そのプレゼントの形が司咲への好意を分かりやすいほどに描いていた。
「でも、受け取れない。ごめん」
「深い意味があるわけじゃないの！似合いそうだったから…」
「ごめん」
「…そっか。ごめんね」
つばさの手のひらの上に返された新しい髪飾り。見ているのも辛くなって、ポケットの中に突っ込んだ。
「……ハートがなかったら受け取ってくれた？」
その問いに司咲は首を横に振る。
「……そっか。そう、だよね…」
司咲の気持ちを知っている。だからこそ、悲しくて胸が苦しい。せっかく買った髪飾りだけど、彼女以外にプレゼントするつもりはない。
電車に乗って、揺られながらつばさは司咲を見つめていた。車内はがらんとしていて、誰もいなかった。綺麗な横顔が星を見上げていて、つばさは星に少しだけ嫉妬した。
「…こっち向いて。俺を見て」
喉から出た声は弱々しくて、かっこ悪かった。振り向いた彼女の顔に笑顔はなくて、ただの無表情。
「……好き」
その頬に触れて、泣きそうな顔で瞳を見つめた。
「…好きっ」
想っても、想っても届かない。彼女が思うのはつばさの友だち。
「……好きっ！」
「泣いても絶対慰めないから」
また彼女の瞳が星を見上げた。溢れそうになった涙を拭って、彼女の手を握った。
「星も好きなの？」
「……別に」
握り返されない手をつばさはひたすら握った。電車は司咲の最寄駅へと着いた。
「崎山さん、ここまででいいよ。ありがとう」
「家まで送るよ」
「いいって…」
「いいから」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
