なんで ページ2
濡らしたタオルで目元を覆った。ひんやりと冷たくて気持ちいい。
「ありがとう。ごめんね、迷惑かけた」
腕を掴まれてつばさは嬉しそうに微笑んだ。
「寂しいなら抱きしめてあげる」
「んなわけないでしょ。抱きしめなくていいわよ」
パシッと伸びてきた手を振り払って、そっぽを向いた。
「叶わない夢を見てしまっただけよ」
その横顔が哀愁を帯びていて、つばさは司咲の体を抱き寄せた。
「やっぱり抱きしめてあげる」
「いらないわよ！離れて！」
ぐぐぐ、と胸を押す彼女につばさはにこりと笑いかけた。
「想い続ければ叶わないことなんてないよ。……博喜との仲は応援できないけど、それ以外なら応援するから」
ハッと見上げたつばさの瞳が優しく細められていた。
力の抜けた司咲の腕を引き寄せて、唇をかすめていった温もりに司咲は目を見開いた。
「隙あり」
にやりと笑うつばさの腕をバシッと叩いた。
「最低っ‼」
「隙を作る司咲ちゃんが悪い」
真っ赤な顔で怒りに震える司咲を抱きしめた。
「ごめん。ちゃんと我慢してたのに、気がついたらキスしてた」
「あなたなんて大っ嫌いよ。離して」
「ダメ。その顔を他の男に見せるなんて嫌だ」
「はぁ？意味わからない。いいから離して！」
「嫌だ！」
胸を押しても、離れる気のないつばさの腕はびくともしなかった。頭を押さえられて、顔を上げることさえできなくて司咲はつばさの腕の中で必死に抵抗した。
「…離したくない。なんで博喜なの。なんで俺じゃないの。なんで、俺だけ嫌いなの」
その心が泣いている気がして、抵抗できなくなった。胸に置いた手がせめてもの抵抗だった。
「大丈夫って、逆に申し訳ないって言ってくれたの」
その言葉が司咲の胸に強く強く、突き刺さった。
「…ありがとう、って言ってくれたの」
今まで誰を助けても、そんな優しい言葉をかけられたことはない。程度は違ってもずっと蔑まれてきたのだ。博喜の温かい言葉がどれだけ、司咲の心を救ったか。どれだけ嬉しかったか。
「そんなの、俺だって言ってあげるのに」
「…でも、博喜さんだったから…」
するっと腕が離れていった。
「フラれっぱなし。でもやっぱり諦められないよ。かっこ悪いなぁ、俺」
「そんなこと」
「慰めないで。…ごめんね」
何に対する謝罪なのか、聞く前につばさは司咲に背を向けた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
