捨て子 ページ1
泣きそうで、泣くわけにはいかなくて、ギュッと唇を噛み締めていると、不意に隣に気配を感じた。唇を強引に開かされて、何かが押し込まれた。それがチョコレートだと理解するのに時間はかからなかった。
「あまり噛むと血が出ちゃう」
優しく手を取られて、その手の平に数個のチョコレートを握らされた。
「…俺だったらそんな顔させないのに」
髪を撫でられて、その手が顔を自分の方に向けさせた。
「俺だったらこうやって司咲ちゃんを俯かせたりしないのに。無理に笑わせたりしないのに」
ギュッと体を引き寄せられて、気がつくと司咲はつばさの肩に頭を預けていた。
「…俺にしなよ」
「……嫌」
「俺なら司咲ちゃんを幸せにできるのに」
「……無理よ」
「俺なら、愛してやれるのに」
司咲はぐっとつばさの胸を押して離れた。
「衣装が」
壁に背を預けて座ると、司咲は深く息を吸って吐いた。
「ダメね。最近は欲深くなってしまったわ」
ギュッと膝を抱えて涙を堪えた。
「私がどんなに手を伸ばしても、博喜さんは振り向いてくれない。分かってるの。光を知ってしまったから、もっと、って望んでしまうのよ」
「望んじゃいけないの？」
視線が合わさった。それは一瞬で、動揺したように肩を揺らした。
「所詮、捨て子は捨て子でしかないのよ。どんなに愛されていたって、私は幸せになんてなれない。…なっちゃ、いけないのよ。顔も名前も覚えてないけど、お父さんとお母さんを苦しめたのは私だから」
傷ついて、後ろ向きになってしまっている彼女につばさは手を伸ばそうとして、やめた。親も兄弟もいるつばさが基裕しか頼れる人のいない司咲になんて声をかけてあげられるのか。
「……私なんて生まれてこなきゃ良かったのに」
蚊の鳴くような声で呟いて、大粒の涙を溢す司咲の肩を掴んだ。
「そんなこと言わないで」
消え入りそうな声の裏に助けを求める声を聞いた気がして、つばさは両手で頬を包んだ。
「俺は司咲ちゃんが生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて良かったって思ってる！」
目を丸くする彼女の目元を拭った。
「運命的に出会って、恋をしてる。俺は司咲ちゃんが必要。いてくれなきゃ困る。ねぇ、それだけじゃ生まれてきた理由にならない？」
司咲は膝に顔を埋めて涙を流した。その手がつばさの衣装の袖を弱く掴んでいた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年8月5日 22時
