想いの違い ページ45
目の前の光景につばさの頭の中は真っ白になった。好きな女が他の男にキスをしている。そんなの、見たくなかった。今すぐに引き離したい。でも、できない。
司咲の長い髪で2人の表情は見えない。なのに、赤く染まった司咲の頬が髪の間から見えてしまった。
「…つか、さちゃ……」
ショックが大きすぎたのだろう。掠れていて、小さな小さな声だった。
見たくないのに、見てしまう。
博喜の頬を包む司咲の細い指が、閉じられた瞳が、赤く染まった耳が。
羨ましい。
何故その相手が自分ではないのかと、嫉妬する。膨らみ続けるその想いが今は爆発しないように両手を握って耐える。
随分と長い間キスをしていた気がする。彼女のことが好きすぎる故の幻かもしれないけれど。
やっと2人の唇が離れて、つばさの心に平穏は訪れるはずもない。
「滅」
自身の胸に星を描いた彼女の口から発された呪文。司咲の耳が再び博喜の胸にくっついた。ホッと息を吐き出して安心したような顔をする彼女を素早く博喜から離した。
「ちょっ！何？」
嫌そうな顔。博喜に向ける顔とは全然違う。
「好きって言ったの、覚えてない？」
「……怖い顔。離して」
所謂、壁ドンというものをしているつばさを司咲は冷めた表情で見返した。
「近い。離して」
司咲の視界の先で博喜の指がぴくりと動いた。司咲の視界には博喜しか映っていない。それを理解したと同時に、つばさの我慢は限界に達した。
「……っ⁉」
司咲の瞳が見開かれた。大嫌いなつばさにキスをされている。そう理解したと同時に強く胸を押した。彼も俳優だ、なんて頭の中から消えていて激情に突き動かされるまま、右手が動いた。
「最っ低…！」
乾いた音とその言葉。気付いた時には司咲はいなくなっていた。遠くで水の音がする。
今になって後悔した。無意識の行動だった。博喜に強く嫉妬した。ジンジンと痛む左の頬がつばさの目を覚まさせた。
しばらくして帰ってきた司咲に冷たい視線を向けられた。
「帰って」
「ごめ…」
「帰って！」
強く言われてつばさは荷物を持った。
「ごめん」
謝られるが、今は許す気にはなれない。つばさには目もくれず、司咲は博喜の手を握った。
嫌だった。つばさに触れられた唇が。博喜にしたキスは覚悟は必要だったけれど、嫌ではなかった。ただただ恥ずかしかった。それがきっと想いの違い。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
