護符 ページ43
司咲の部屋に着くと、つばさは静かに博喜を床に横たえた。
「ありがとう。本当に、ありがとう」
泣きながら礼を言われて、つばさは司咲の目元を親指で拭った。こんな涙は見たくない。ふと、そう思った。泣いているところなんて見たくない。
司咲は踵を返すと、博喜の側に膝をついた。目を覚ます様子のない彼の額に司咲の額を合わせる。
どうにか、司咲の体の中に移せれば術の発動ができる。微量の霊力を彼に流し込んでいると、肩を引かれて額が離れた。
「近い」
不服そうな顔。分かりやすい嫉妬。司咲は肩に触れたつばさの手を払った。ここまで協力してもらったが、それとこれとは別だ。やはり彼に触れられるのは嫌だ。
スマホを取り出すと、司咲は基裕に電話をかけた。数コール後に繋がった通話。
『もしもし、司咲？』
その声を聞いた瞬間に、涙がまた溢れた。
「基くんっ……。ごめん…。博喜さんが……っ」
次から次へと溢れる涙で言葉がなかなか出てこない。
今日が休演日だとしても、また明日からも公演があるだろう。
『司咲、落ち着け。…どうした？』
「…博喜さんの…体に、霊が…入り込んじゃって……わた、私のせい…」
号泣する司咲に手を伸ばしかけて、つばさは手を引っ込めた。
「基くん、そこに…来夢くんたち…いる？」
『来夢と升吾と涼星だけだけど、いるよ』
涙を拭って、司咲は両手でスマホを握りしめた。
「スピーカーにするから、みんなで博喜さんに話しかけてほしい。知り合いの声の方が反応しやすい。…私は、入り込んだ霊を何とかする。時間かかるかもだけど、私が何とかしなきゃいけない」
『分かった。無理するなよ』
「うん」
司咲はそう言って、スマホを床に置くとスピーカーモードにした。
立ち上がると、棚から丁寧に保管していた護符を数枚抜き取る。スマホからは4人分の博喜を呼ぶ声が聞こえる。司咲にはちゃんと力がある。泣いてばかりではいられない。
「禁！」
博喜の周囲に結界を施すと、護符を上に向かって投げた。パラパラと舞う護符。
司咲が一度手を打ち鳴らすと、それは肩、頭、胸、足に引き寄せられるように舞い降りた。
右手を人差し指と中指を立てて握った。それを空中に星を描くように振る。
「オン」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
