普通じゃない ページ5
基裕のところまで行くと、おー、と気のない返事が聞こえた。
「あー、やっぱデカかったな」
ダボダボの服を見て、基裕はふふ、と笑った。
「基くん大きいから仕方ないでしょ」
「そうだな」
そう言って基裕はわしゃわしゃと司咲の髪をかき回す。
「わっ」
そのまま抱きしめられて、髪を整えられる。
「何があった？」
優しく聞いてくる基裕に、司咲は少しだけ悲しそうな顔をした。
抱きしめていた腕を離して、優しく頭を撫でると司咲は震える唇を開いた。
「仕事、辞めてきちゃった」
「…そうか」
「やっぱり、普通じゃない私は普通に仕事をすることもできないのかな…？」
ただ視えるだけ。視える以外は普通の人間なのに、それだけで虐げられる。ミスを全て押し付けられて、業績が落ちるのは司咲が疫病神だからだといちゃもんをつけられる。ずっと我慢していたけれど、とうとう退職届を叩きつけてきてしまった。
「そんなことない。大丈夫だから」
基裕は司咲を抱きしめて、あやすように背中を撫でた。見えない基裕には何を言っても気休めにしか聞こえないだろう。だからただ抱きしめることしかできない。彼女の苦しみを聞いて想像することしかできないのだ。
「またニートに逆戻りだよ。ごめんね、基くんも協力してくれてやっと就職できたのに」
「そんなの気にしなくていい。司咲が傷つくくらいならもういい」
ただただ、か弱くて世間の目にたくさん傷ついてきた妹のような存在を抱きしめ続けた。司咲の手が背中に回ってきて、涙が肩を濡らしていく。
たくさんの傷を抱えていて、もう頑張らなくていいと思うのに頑張ってしまう大切な妹のような存在。
「正社員じゃなくて、バイトでもいいんだよ」
「…うん。私、疲れちゃった」
それでも、身寄りのない彼女はどこかで働かないと生きていけない。
「バイト、探す」
「俺も手伝うよ」
「ありがとう」
「今日はもう寝よう？」
「うん」
「風呂入ってくるから先寝てて」
「うん」
もぞもぞと基裕が使うベッドに横になった。こうして基裕の家に泊まらせてもらうと決まって2人はベッドで一緒に寝る。小さい頃からの癖のようなもので、そこに恋情などは一切ないのだった。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
