スーツ ページ40
「分かりました。これで面接は終わりますが、何か言っておきたいことはありますか？」
9月24日の昼過ぎ。司咲は面接を受けていた。緊張していたのだが、意外とすらすらと答えることができてホッとしていた。
そして先の質問。人ならざるものを視てしまう司咲の特異な目のことを言うべきかどうかと一瞬だけ逡巡した。こんな時に思い出すのがつばさの言葉だったのが心底嫌だったけれど、司咲は顔を上げておそるおそる声を発した。
「あの、ひとつだけいいですか？」
「どうぞ」
「こんな話、恐らく現実離れしていて信じてもらえないかもしれませんが、嘘偽りはありません」
司咲はまっすぐ面接官の男性を見て、ゆっくりと話し出した。恐怖がなかったわけではない。でも、少なからず認めてくれる温かい人種もいるのだと分かってしまったから。
「私は人ならざるもの…霊や鬼や妖といったものが視えるんです。…その、人との区別ができない程に鮮明に見えてしまうので、もしかしたら迷惑をかけてしまう恐れが…あります」
そう言って司咲はプルプルと震える手を握り込んだ。
「……その。私のせいで引き寄せてしまうかもしれません。ですが、視える私だからこそ対処できる現象もあります。それを加味した上で考えていただければと思います。よろしくお願いします」
「分かりました。この仕事への熱意と想いは十分伝わってますので、安心して結果をお待ちください」
「はい。ありがとうございました」
司咲はぺこりと頭を下げてその会社を後にした。
「お疲れ」
会社を出ると、そこにいた人物に司咲は顔を顰めた。
「スーツ姿は初めて見た。かわいいね」
「どうも」
「面接どうだった？」
「結果が来るまではなんとも」
司咲の隣に並んで歩く彼を軽く睨みつけた。基裕の差し金とはいえ、手伝ってもらった手前追い返すことなんてできなかった。
「暇なの？なんでいつもいつもあなたなのよ」
街中で会うのが。何故来夢たちには会えないのか。博喜に会えないのかと嘆いていた時。
つばさから逸らした視線の先でバチっと女の人と目が合った。
「…ねぇ、あのお姉さんどうしたのかな…」
泣いていた。司咲の方を見て。
「……え？」
司咲の視線の先で、その人は驚いたように目を見開いた。つばさの肩を叩いた司咲の手が小刻みに震え出した。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
