正論 ページ39
目の前には眼鏡をかけたつばさが笑顔で座っている。何故、つばさが司咲の家にいるのか。それは10分も前のことである。
玄関のチャイムが鳴り、また基裕だと思い玄関を開けた。そこに立っていたのがつばさだったのだ。
「手伝いに来たよ」
なんて笑顔で言うから、思わずドアを閉めた。
「あれ、司咲ちゃん？」
コンコン、とノックをされて司咲はちっと舌打ちをした。本当に嫌いなのだ。就活は初めてではないから、1人でもできるのに。
とりあえず、コンコンコンコンうるさいので、司咲は仕方なくつばさを中に入れた。
「なんで知ってんのよ」
「もっくんが教えてくれた」
「基くんめ…」
ため息を吐いて、司咲はせめてもの対抗心から熱いお茶をつばさの前に置いた。小さな嫌がらせだった。だが、涼しい顔で口をつけるから司咲はため息を吐いて彼の正面に座った。
「ごめんね。俺明日から大阪だから今日しか手伝えそうにないけど」
「別にいい。面接だって初めてじゃないんだし」
「どんな感じ？」
「履歴書書いてるところ」
冷たくそう言われて、つばさはそっかと笑った。司咲の側に書類が落ちていて、つばさはそれを拾い上げた。
「ここ受けるの？」
「……そうだけど」
「へぇ。俺もよくお世話になってる会社だ」
なんて呟くと、司咲は予想通り嫌そうな顔をした。つばさは小さく笑う。
「ほんっと嫌い」
「俺は好きだけど」
「気持ち悪い。やめて」
表情が抜け落ちたような顔で司咲は腕をさすった。目の前のつばさは笑顔で、司咲はキッと睨みつけた。
顔が整っているのは認める。ファンだったら今の司咲の状況は羨ましい限りだろう。だが、彼のことを嫌っている司咲にとっては迷惑以外のなにものでもない。
「傷つく」
「どうせここにいたってやることないんだから、帰っていいよ」
「そうだね。でも、もっくんに頼まれてるからなぁ…」
そう言ってつばさは微笑んだ。
「ここの会社、不器用でもやる気のある方ばかりだなって印象。あと、みんな仲がいい。司咲ちゃんのその目のことも受け入れてくれるんじゃない？」
「……そんなの」
「否定する前に試してみて！それでダメならまた考えよう」
ぐっと眉間に皺を寄せる。彼に言われたのは励ましでもなんでもなく、正論だった。だから余計に腹が立った。
キッと睨んで目を逸らした。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
