面接 ページ38
「基くん、ちょっと楽しんでるでしょ」
肩を押されて離れると、司咲の不服そうな顔が視界に入る。
「いや？俺はいつだって妹分の司咲の幸せを願ってるだけだよ」
「本当は？」
「司咲とつばさが付き合えばいいなって」
「うっっっっわ。最悪。気持ち悪い！絶対無理！」
両腕をさすって本気で嫌がる司咲に基裕は苦笑いを浮かべた。
「お似合いだと思うんだけどな」
「嫌‼あの人なら博喜さんの方が何百倍もマシだよ！」
勢い任せにそう言って、司咲はぶんぶんと首を横に振った。
「…来夢くんたちに会いたいな」
鳥肌が引いた頃、司咲はぽつりとそう呟いた。
基裕の言った通り、片っ端から電話してやっと面接の予定が立った。面接してくれると決まっただけなのに飛び上がるほど嬉しくて、司咲は思わず基裕に電話してしまった。
『へぇ。良かったな』
「うん！基くんが紹介してくれたとこ！」
『でもまだ喜ぶのは早いんじゃないか？』
「……そうだけど。でも嬉しくて！」
電話越しでもその喜びが伝わるのか、基裕は電話の向こうでクスリと笑った。
『で、いつなんだ？面接』
「9月24日！」
『そんなに時間ないな…。ここからは俺は専門外だから。つばさにお願いするけど、いいよね？』
「……えー」
いいよね、と言いながら基裕の口ぶりからするとそれは確定事項なのだろう。
『つばさも公演始まってるからそんなに見れないとは思うけど、頼んどく』
「…はぁい」
『…まったく。何がそんなに嫌なの』
「強引。しつこい。うざい。こっちのことなんてお構いなしにズカズカ入ってきて心の中かき乱していくから嫌い」
その言葉を聞いて、基裕はまた電話の向こうでクスリと笑った。
「…なんで笑うの」
『司咲も“普通”の女の子なんだと思ってね』
「……納得できない。今のどこに女の子の要素あったの？」
『あ、時間だ。行かなきゃ』
「ちょっと、基くん！」
『悪いな。じゃあ、また」
プツッと通話が途切れた。司咲は大きなため息を吐いた。
「逃げたな…」
スマホをポケットにしまって、司咲は大きく伸びをしてから履歴書を下書きとして、シャーペンで書き出した。まずは書いてみる。それから添削を繰り返して完成させて、9月10日には送らないといけない。
忙しくなる、と少しだけ浮き足だった。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
