就活 ページ36
司咲はシャワーを浴びると、布団に入った。今日はもう何も見たくないとでも言うように目を閉じた。
基裕と話をして、これからの方向性も決まり、なんだか少しだけ未来に希望が持てるような気がしてきた。
基裕の舞台は楽しかったし、明日からまた頑張れる気がしてきた。ちゃんと就職して、今度こそ『普通』に生きていきたい。それが司咲の望む道だった。
パソコンを立ち上げて、司咲は求人情報を漁っていた。だけど、舞台関係の求人はあまりなく、困っていた。
時刻は昼前。進まない就職活動にため息をついた時、不意にスマホがメッセージを受信した。見ると、基裕からで司咲は嬉しそうにメッセージを開いた。
『調子はどう？就活は進んでる？』
その気遣いが嬉しくて、司咲は微笑んだ。
『就活はなかなか進まない…』
そう送ったと同時に家のチャイムが鳴る。司咲の家に訪れる人。そんな人ほとんどいないのに、と司咲は腰を上げた。
ドアを開けると、そこにいたのは基裕だった。
「え、基くん？」
「司咲、確認もせずに開けたら危ないだろ」
「だって、うちに来るのなんて基くんくらいじゃない」
「変質者かも知れねーだろ。ちゃんと確認しろ」
「いたっ」
額を指で弾かれて、司咲は恨めしげに基裕を見上げた。
「就活、どうせ進んでないだろうと思って。手伝いに来た」
「……それは嬉しいけど基くん、仕事は？」
司咲も観に行った、ミュージカル『刀剣乱舞』葵咲本紀の公演があるはずなのだ。
「合間にフラッと寄っただけだよ。気にすんな」
基裕を部屋に招き、司咲は夏なので冷たいお茶を出す。
「ありがとう」
気にすんな、とは言うが劇場から司咲の家までは距離がある。司咲もつい数日前、その距離を往復したから身をもって知っている。だけど、わざわざ来てくれた彼の好意を無下にしたくはなくて、受け取ることにした。
「舞台に関する知識が皆無の状態で求人サイトを漁っても何も分かんないだろ」
その言葉に司咲はこくりと頷いた。舞台の裏方の仕事をしたいと思っていても、司咲は知識がないし何ができるのかも分からない。
「司咲は手先が器用だから、衣装とかヘアメイクもできそうだけど、専門会社よりは総合会社の方が合ってそうだね」
そう言って、基裕はいくつか書類を机の上に広げた。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
