もしも、運命なら… (ページ35)

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知識だけページ35

手のひらから伝わる、晴明の力は優しくて泣きそうになった。基裕以外にこうして優しくされたのは初めてだった。

『危ないから人間以外とはあまり目を合わせないように。奴らは生きている者を使者の世界へ引き摺り込もうとしたり、体を乗っ取って悪さをしようとする。お主のように霊力の強い者は特にその危険と隣り合わせだ』

晴明は優しく司咲の頭を撫でた。

『大丈夫。目さえ合わせなければ襲ってくることはない。できそうかい？』

司咲はその言葉にぶんぶんと首を振った。

「よく見ないと、分からないんです。人か、人じゃないのか。初見では判断できないんです」

はじめて神様の前で泣いた。見えている司咲が危険に巻き込まれないように考えてくれるのが嬉しかった。

『どうやら、生前の私よりも強い力を持っているようだ』

「あなた様よりも…？」

『左様。簡単な陰陽術を教えよう。何かあればお主やお主の周りの者を助ける力になるだろう』

「ありがとうございます…。それがあれば何かあっても基くんを助けられるってことですよね？」

『お主の大切な人なのか？』

「兄…のような人です。見えている私の側にいてくれる、ちょっと変だけど優しい人です」

『その人の為にも覚えて帰ると良い』

司咲は涙を拭って大きく頷いた。

「はい‼」

基裕は司咲の憧れで目標だった。基裕のように誰かを救える人間になりたい。きっとそれに近付く第1歩だと思った。

晴明が教えてくれた結界術は本当に簡単だった。単純な霊力ならばほとんどの霊や妖は司咲には敵わないのだそう。結界を展開する範囲をイメージして『禁』という呪(しゅ)に霊力を乗せるだけ。

この時のやりとりが基裕や、来夢やみんなを助けることに繋がった。本当にあの時、晴明神社へ逃げ込んでよかったと思っている。

「晴明様、私できました…」

1人ぽつりと呟いた。

晴明はあの日、司咲が神社を出る時にまた来るようにと言った。結界だけではダメだと。悪意のあるものが近しい者の体を乗っ取った時、対処できない。だから、晴明が知り得る知識と技術を教えてやろうと言ってくれたのだ。

何もできないことに変わりはないが、知識だけは身についていた。実践したことはない。それもいつか役に立つ時が来るのだろうか。それならば、晴明に教わったことも無駄ではなかったと胸を張れるだろう。