個性 ページ33
ただ静かに問いかけられて、司咲は目を泳がせた。普通、普通と幾度となく口にしてきたけれど、そもそも普通とは何かと聞かれて司咲は何も答えられなかった。
「……普通って人によって違うんだよ。俺には俺の普通があるし、つばさにはつばさの普通がある。司咲にも司咲の普通があっていいんだよ」
「私の、普通…？」
司咲の言葉に基裕は力強く頷いた。
「俺たちには見えないものが見える。それが司咲の普通でしょ？俺はそんな司咲が好きだよ。人に合わせる必要なんてないんだよ」
基裕の優しい声が紡ぐのは優しい言葉たちだった。何度も司咲に立ち向かう勇気をくれた。だからこそ、胸によく響く。他の誰でもない、基裕だからこそ。
「普通って言い換えると個性だよ。常に穏やかなのがつばさにとっての普通だとしたら…」
「……穏やか…？」
司咲は頬から基裕の手を外して、つばさを見た。つばさは目が合ってにこりと微笑むが、すぐに逸らされてしまった。
「司咲は司咲のままいればいいんだよ。司咲を否定するやつなんて放っておけばいい。少なくとも、ここに司咲を認めている人間がいるから。胸張って。大丈夫だから」
頭をポンポン、と撫でられて司咲は微笑んだ。綺麗な顔にかわいい笑顔が咲いて、つばさの胸が高鳴らないはずがなかった。
「私、舞台の裏方関係の仕事がしたい。間接的に誰かを笑顔にするためのお手伝いがしたい」
「うん。舞台の裏方なら、少しは手伝えるかな。と言っても紹介までしかできないけど」
「十分だよ！ありがとう、基くん」
ぎゅぅっと基裕に抱きついて、司咲は嬉しそうだ。つばさにはそんな笑顔見せてくれない。だから少し羨ましかった。
「司咲ちゃん、俺も手伝うよ」
「いや、いい」
「つばさ、こう見えて一般企業に就活したことあるから俺より参考になると思うけど？」
「基くん、何言ってんの？」
「そうだ、つばさ。この子ね、今無職なの。嫌がるかもしれないけど、少し協力してあげて」
「もちろん」
「ありがとう」
「基くん、嫌だよ。なんでこの人にお願いするの」
「だって、つばさも俺と同じだし」
抱きついていた腕を離して、司咲は恨めしげに基裕を見上げた。
「あれ？つばさも俳優やってるの、知らない？CDも出してるけど」
「……⁉……知らない」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
