普通 ページ32
舞台の感想を話しだす彼女の瞳はキラキラと輝いていた。阪本奨悟の話をしている時のような輝きぶりで、基裕は微笑んだ。少し興味を持っているみたい。
「物語はなんだかよく分からなかったけど、基くんだけじゃなくて、みんな生き生きしていて見てて楽しくなっちゃった」
「ありがとう。楽しんでくれたなら誘った甲斐があったかな」
頭を撫でられて、司咲は嬉しそうに微笑んだ。
「あんなにたくさんの人を笑顔にしちゃう基くんたちはすごいなって思った」
ただ、純粋に。司咲には人を笑顔にする力はないから少しだけ羨ましかった。
「私も、あんな風に誰かを笑顔にする仕事、してみたいな…」
ぽつりと呟いて、司咲は前を向いた。つばさと目が合って、バッと逸らした。
「女優になりたいってこと？」
「そうじゃない。私に演技なんてできないし…。ただ私は…」
ふっと自覚した胸の中にある想い。まるで宝物に触れるように、そっと声に乗せてみた。
「誰かが笑顔になるような…。私がしたことが、回り回って誰かの笑顔に繋がるような…、そんな仕事がしたい」
だけど、普通ではない司咲がどうやって人を笑顔にできるのか。そんな夢物語、司咲に叶えられるわけがない。何より、怖いのだ。また、疫病神などと言われて後ろ指差されるのが。そう思うのは、司咲のことをすごいと言ってくれる温かい人たちに出会った直後だからだろうか。
「でも私は…」
頑張ったところで無駄かもしれない。司咲が人ならざるものを見てしまう人間なのだと分かった時点で、普通は司咲を視界にすら入れないようにする。人は未知なるものを恐れる。だから司咲はただ見えるだけなのに、気味悪がられて遠ざけられた。
「私には、そんな資格……ないよね」
ぐいっと顔を上げられて、司咲は必然的に基裕と目を合わせる形になる。両の頬を覆う基裕の両手から彼の体温が流れてくる。生きている人特有の、温かい温度が司咲の後ろ向きの心を叱責しているようだった。
「何をもって資格、って言うの？」
「だって、私は…普通じゃない」
顔を固定されていて、俯けず、司咲の瞳だけがどんどんと下を向いていく。
「じゃあ、普通って…何？」
「え？」
「司咲の言う普通って何？」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
