幼馴染み ページ4
走って走って、気がつけば辞めた会社の近くまで来ていた。遠目に見えるそのビルにため息を吐いてから踵を返した。思わず逃げてきてしまったが、最後に会った霊はとても優しそうな顔をしていた。
思い出すと、また身震いがした。霊は霊だ。善良であれ、悪霊であれ怖いものは怖い。
司咲は人ならざるものが生まれた時から見えていた。あまり覚えていないけれど、2歳の時に母に『あの人は誰？』と聞いたことがあった。だが、そこには誰もいないし、何もいない。
それを気味悪がった母。それを繰り返すうちに父にも酷く怯えられるようになった。
ある日の朝、目が覚めると司咲は見知らぬ施設にいた。大きくなってから教えてもらったことだが、養護施設の前に捨てられていたのだそう。
本庄司咲という名前だけが両親と彼女を繋ぐもの。
雨で濡れたせいか、マイナスのことばかり考えてしまう。近くにあったベンチに座って、持っていた鞄の中からペットボトルのお茶を出して一気に飲み干した。
散々な1日だった。職は失うわ、霊に絡まれるわ、通行人には白い目で見られるわ、傘は落としてきてしまうわ。
とにかく、早く帰りたかった。だけど、雨は強くなる一方で電車は動かない。もうずぶ濡れだった。寒さと行き場のない憤りで涙が溢れた。
雨のおかげで涙は誤魔化せる。
これからどうしようかと、本気で考え始めた時不意に声をかけられた。
「司咲？」
振り返れば、そこには高身長イケメンの幼馴染、太田基裕の姿があった。
「……え、基くん。どうしてここに？」
「司咲こそ。傘は？」
「落とした…あはは」
「あははってお前な…。とりあえずうち来な」
「いいの？」
「仕方ないだろ。電車も止まってるし、その状態の司咲を放置して帰るほど鬼じゃないよ」
「ごめんね、ありがとう」
基裕の後ろをてくてくと歩いて、司咲は彼の家にお邪魔することにした。
基裕とはまだ施設にいた頃にたまたま知り合った。6歳歳上の彼は司咲にとって兄のような存在だった。
基裕の住むアパートに着くと、そのまま風呂に押し込まれた。ありがたくお風呂を使わせてもらって、出ると基裕のシャツとズボンが用意されていた。下着は少しドライヤーで乾かしてから身につけ、用意されていた服を着た。
「基くん本当にありがとう。助かった。命の恩人。大好き」
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
