輪廻転生の輪 ページ25
ペンは結界に当たって落ちた。
その霊は少年の格好をしていた。まだ10代くらいの、たくさん遊び回れるお年頃の少年。
その辺にある、鋭利なものが次々とこちらへ向かってくる。
「……っ‼」
そのうちのいくつかが司咲の右腕をかすった。
滲んだ血にも痛みにも知らないふりをして、司咲は一歩足を踏み出す。
「もうやめて。これ以上悪意に染まらないで。輪廻転生の輪から外れてしまう。外れた魂は焼かれて存在ごと抹消されてしまうの、あなたに分からないはずないでしょう？」
霊に声をかける司咲の姿はやはり頭のおかしな人に見えるのだろう。
人は死ぬと輪廻の輪に還るのだ。ただ、その輪に帰るための道を忘れてしまった魂や、故意に道を外れた魂が霊として現世にうろついているのだ。
『うるさいっ‼』
彼の手で投げられたハサミが司咲の右腕をさらに切り裂いた。
『なぜ避けないっ⁉』
霊には良心があった。それが分かっていたから司咲はあえて自分に結界を施さなかったのだ。これまでのどんな霊とも違う。悪意の中に優しさがあった。
生前、霊感と呼ばれるものがあった者は強い力を持つと言われている。おそらく目の前の霊も霊感があったのだろう。だから、同じように見えている司咲に親近感を覚えているのだろう。
攻撃がぴたりと止んだ。
『実の両親に捨てられ、霊が見える俺を気持ち悪いと忌み嫌う！挙句に目障りだと殺された！俺は人間が憎い！お前もそうだろう。大人から愛されなかったお前が普通に生きることなんてできない』
チカチカ、と電気がついたり消えたりする。司咲は首を横に振った。
「そんなことない」
『俺たちは存在しているだけで疎まれる。後ろの奴らだってもうお前を人間として扱わなくなるさ』
「確かに、そうかもしれない」
司咲は一歩、前に出た。その霊を理解してあげられるのは司咲だけ。同じような境遇に身を置いて、苦しんできた彼女だけ。彼らの違いは人か霊かの違いだけ。
『何故人を助ける？人は俺たちのような人間を恐れ、蔑む』
「そうね。でも、どんなに疎まれても、忌み嫌われても私は誰かの役に立ちたい。あなたのことだって助けたい」
『何故』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
