ポルターガイスト ページ24
「違います、断じて。絶っっ対あり得ませんから！私この人嫌いですし」
基裕はそんな司咲の表情を見て、怪しく微笑んだ。それは舞台上の千子村正のような微笑みだった。
「嫌い？」
「大っ嫌い！」
「…へぇ」
ムキになって言う司咲がなんだか微笑ましくて、基裕はからかうような笑みを口元に浮かべた。
「すごい嫌われよう…。何したんですか？」
そう問いかけた時だった。バチっと音がして、全ての電気が一気に消えた。
「動かないで‼」
その瞬間、司咲の背中を冷や汗が流れた。真っ暗な視界。早鐘を打つ心臓。恐ろしくて震える手でスマホのライトをつけた。
なんだなんだ、と騒いでいるスタッフの声。ブレーカーを見に行ったとて、ブレーカーは落ちていないだろう。理由は簡単だった。
「司咲ちゃん、大丈夫？」
「動かないで。一歩でも動けば最悪死にますよ」
つばさの声に司咲は凛と言い放つ。それでも恐ろしさは拭えなくて手は震えたままだった。
「怖っ」
誰かの声。だけど、さすが舞台俳優というべきか。声が通る。
「ここは司咲の言う通りにして」
基裕の言葉に全員が頷く気配がした。見えない彼らより見えている司咲の方がずっと対応に慣れているのだ。
ぽうっと青い炎が浮かび上がる。
「…鬼火…」
司咲はスマホのライトで周囲を照らした。
大体人がいる場所は把握した。
見上げると悪意のある霊が1体。善良な霊も少なからず悪意を持っているもの。それがいつ、どのタイミングで膨れ上がるのかは個々による。
霊がその辺のものを持ち上げる。だが、普通の人に霊の姿は見えないので物がひとりでに動き出したように見える。俗に言う、ポルターガイストという現象だ。
司咲はただ見えるだけで何もできない。否。やったことがないから何もできないだけで、知識は培われている。
司咲は“視る”という力を持っているのだ。それも、かなり強力な力。
司咲はライトを消すとスマホをポケットに、目を凝らす。司咲にだけ聞こえる嫌な声。苦しみ、泣いているように見えた。司咲と同じような目で、強く強く、嘆いている。
人と人の間をすり抜けて、司咲は霊の正面に躍り出て、両手を広げた。
ペンが飛んでくる。
「禁！」
それは簡単な結界術。より鮮明に見えるほどその結界は強固なものとなる。司咲以外の人間を囲う不可視の壁は霊から彼らを守るためのもの。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
