嫌い ページ15
「働かないと生きていけないので」
隣に降り立った神様を一瞥して、できるだけ小声で答えた。
《まあ、せいぜい頑張れ》
「ありがとうございます」
そう言って消えて行った祭神。少しだけホッとした。基裕だけではない。こんなところにも味方がいたのだと気づけた。
「ありがとうございます」
また小さく呟いた。
「あ、また会えた」
神社の入り口を一瞬見て、司咲は無言で立ち上がった。1週間と少しぶりに見る彼はやはり変わっていない。
持っていた雑誌をカバンの中に入れる。
「すみません、帰ります」
言うが早いか、歩き出した。
「待って、司咲ちゃん」
つばさの声が背中にかけられるが、もちろん待つ気なんてさらさらない。
「司咲ちゃん」
いつの間にか並んで歩いていて、司咲は苛立ちに任せてつばさを睨みつけた。
「そろそろ連絡先交換しない？」
「嫌です」
「今日は持っているんでしょ？」
「持ってますけど、嫌です。そろそろ諦めてください」
失念していたが、もう神社は安全地帯ではなくなっていたのだった。唯一のオアシスが、と心の中で嘆いていると不意に手首を掴まれた。
反射で振り払って、後ずさる。
「なんですか」
少しだけ硬い声。怯えた表情。掴まれたところを逆の手で握って自分を守るような動作。
「何に怯えてるの？」
「……別に」
彼に背を向けた。つばさには関係ないのだ。知らなくていいし、知ってほしくない。
「何度も言ってますけど、私に関わらないでください」
諦めてくれないことに腹が立つ。何度突っぱねても追い返してもめげずにまた来る。それにまた腹が立つ。
つばさに背を向けたまま走った。その日はもうつばさには会わなかった。
つばさが怖いとかではない。ただ、迷惑だった。見た目に似合わずに強引で、諦めも悪い。
「…嫌いっ！」
つい、口から言葉が出て足が止まった。
そうだ。嫌いだ。あんな人。司咲が神社にいる時に高確率で現れて、掻き乱していく。
「最低、バカ、嫌いっ！大っ嫌いよ」
涙がひとりでに溢れた。その様子を少し後ろからつばさが見ていたなんて司咲は気付いていなかった。
その場に蹲って、涙が去るのを待った。
そんな様子の司咲を見て、つばさは踵を返した。傷つけたいわけではなかった。泣かしたいわけでもなかった。ただ彼女に近づきたかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
