連絡先 ページ12
思わず耳を押さえた。劈くような耳障りな声。後ろに視線を向けると、鬼らしき巨体が2人で霊を抑え込んでどこかへ連れて行った。
「大丈夫？」
今の声が聞こえないなんて羨ましい、とついつばさの顔を凝視してしまう。
「大丈夫です。…帰ります」
くるりとつばさに背を向けて歩き出した。つばさは慌てて彼女を追いかけると、隣に並んだ。
「送るよ」
「結構です。1人で帰れますから」
「俺がそうしたいの。送らせて」
「頑固な人ですね」
「司咲ちゃんこそ強情だよね」
結局、断りきれずにアパートまで送られてしまった。
「あの、すみません。さっき声荒げてしまって…」
「急に素直。俺も踏み込みすぎたかな。ごめんね」
「本当ですよ。もう金輪際関わらないでください」
「それは無理かな。俺、司咲ちゃんに興味持っちゃった」
「それは幻です。まやかしです。とっとと忘れてください」
司咲はふいっと顔を背けた。
「司咲ちゃんの笑顔が見たい」
「やめてください、気持ち悪い」
本気で嫌そうな顔をする司咲につばさは笑顔を向けた。
「そのうち連絡先交換してね」
「だから嫌ですって」
「またね！」
手を振って去って行く彼の後ろ姿に司咲はため息を吐いた。
「…厄介な人に出会っちゃったかな〜」
そう言いつつエレベーターに乗り込んだ。司咲が住んでいるのは、3階の308号室。角部屋だ。ポケットからスペアキーを取り出す。オートロック付き物件にして良かった、と思うのはこれが初めてではない。
部屋に入ると、司咲は机の上に広げていた転職情報誌を片付ける。
何回か点々と仕事を変えているが、司咲は事務仕事しか経験がない。人とあまり関わらない仕事がいい、と思っての選択だった。やりたいことがなければ、興味のあるものもない。そんな状態でどうやって探せばいいだろうか、そんなことを一瞬考えて、頭を振った。
「ご飯食べよ」
主に気疲れで疲弊してしまったので、作り置きしていたものを温めて食べた。スマホをつけるとメッセージアプリを立ち上げる。連絡先は基裕しか登録していない。
どうしてあの人は司咲の連絡先を欲しがるのか、分からない。名前を呼ぶのもなんだか嫌で、呼んだことはない。そもそも、もう会わないのだ。関係ないだろう。
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
