序章�� ページ2
彼女に声をかけた彼は隣で必死に笑いを堪えている親友の肩をどん、と押した。
「お、おば、……おばけ……っ‼」
彼女に声をかけた男性、その名を崎山つばさという。人気上昇中の2.5次元俳優だ。その隣で大爆笑しているのが黒羽麻璃央。こちらもまた、有名な2.5次元俳優である。
「俺、29年生きてきてあんなに怯えられたのはじめて」
その言葉にまた麻璃央は盛大に笑っている。
「笑いすぎ」
軽く睨みつけて、つばさは彼女が落としていった傘を拾い上げる。緑のシンプルな折りたたみ傘だった。
彼女の名前も連絡先も知らないから、持ち主に返すのは難しい。どうしよう、と悩んでいると横からスッとひとつの影が現れた。
「何してんの？」
「わっ！びっくりした。流司か」
「それがさぁ！」
麻璃央はまだ笑いながらさっきあったことを一部始終彼に話した。
「マジ？それ、面白いっすね」
流司もクールなフリをしているが、お腹を抱えて大爆笑だ。
「笑い事じゃないよ、まったく」
なんて言いながらつばさも少しだけ笑ってしまっている。正直、自分が声をかけて驚かれはしてもあんなに怯えられるとは思っていなかったのだ。自意識過剰だろうか、と少しだけ反省した。
「どうしよう…。警察？」
「いや、つばさ預かってなよ」
なんてまだ笑いながら言う麻璃央を睨んだ。
「東京都内だし、また会えるかも！」
「少女漫画じゃないんだから」
そう言いながら、時間的にこれから警察へ行くのは気が引けるので明日届けようと決めて、傘を畳んだ。
やむ気配のない雨が今も不思議な雰囲気を纏う彼女の体温を奪っているのだろうかと考えると風邪を引かないか心配になってくる。けど、怯えて走って行った彼女はもうどこにもいない。あの時追いかけていたとしても、怯えられるだけだったろう。
もし叶うなら直接返したいが、それこそ少女漫画ではないのだから無理だろう。
ただ、怯えられた理由くらいは聞いてみたいと思った。
それがつばさと本庄
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作者名：星ノ宮昴 | 作成日時：2021年6月29日 15時
