【完結】パン屋×King & Prince【前編】 (ページ5)

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side YOU ページ5

フランスを離れてから1年が経った頃。

祖母の相続手続きも税理士さんの力を借りてなんとか終え、時間にも心にもゆとりがでてきた。

祖母はもともと赤坂の自宅で喫茶店を営んでいた。

ビル街にぽつんと存在する日本家屋。
異世界に迷い込んだような佇まいの家は私のお気に入りだった。

日本に戻ってきても、やっぱり私は職人らしい。
気づいたらパンのことばかり考えていた。

パリにいた頃は目まぐるしく毎日が過ぎていった。
パンを作り、新作を考え、パンを作り、、。

それはそれで充実していたし、今回のことがなければ私はそのままパリにいただろう。

いや、でもどこか自分のペースを乱され、呑まれる状況に疲れていたのも確かだ。きっとどこかで張り詰めていたものが切れていたかもしれない。

祖母の死はきっかけにすぎなかったと思う。

それから、かつての喫茶店を改装して小さなパン屋さんをオープンさせた。

儲けようとか一切考えず、自分の作りたいもの、インスピレーションに従ったメニュー。かつての喫茶店のお客さんが何人か来てくれて、ひっそりと営業していた。

そこから少し冷え込んできた頃、もうパンも無くなってきたし、閉店時間も迫ってきたので明かりをやや暗くして、清掃作業をしようとした頃、1人の男性客が入ってきた。

若い人か。珍しいな。

祖母の喫茶店の常連客中心に来るため、基本的には高齢者のお客さんが多い。若くても40代の方くらい。あ、1組だけ若い方達が来るくらいか。

「こんばんは。」

お客さんに声をかけるとビクッとして帽子を目深に被りなおした。背はやや高く、細身の綺麗な髪色をした人だ。

どうやら看板を見て入ってきたみたいだが、あいにくほとんどパンはなく、たまたま残った私の明日の朝食用にするつもりだったドライフルーツの入ったバケットしか残っていなかった。

どうやら、彼は財布を持っていなかったらしい。
でも、なんだか疲れ切った様子がかつての私に重なって、そのまま帰すことはできなかった。