至ってシンプル（ワタナベマホト）

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「あんまりいろんな事を複雑に考えないタイプなんだよね」


締めのデザートを口に運ぶと甘酸っぱい味が広がって黙って味わいたくなる
ひんやりとしたそれに頭まで冷やされるような感覚になりながら


「好きなものって全部ほしいでしょ？」

いろんな問題はもちろんある
世間体だとか、相手の気持ちとか、考えなきゃいけない事が山積みなのが現実
そうやって大人になっていくのかな、なんて思ったりもするよ。ちゃんと
人の気持ちにだって鈍くはない…とは思っている

でも、だけど

そんな風に言い訳するくらいなら私は嫌われても、本音で生きたい
万人に好かれるなんて不可能だってわかっているんだから
ひねくれてる？まさか、


「耕大も、マホトも、大好きだから」


2人に、私を好きになってほしい

にーっこりと笑う
それは半分おどけて、半分真面目に


「大体耕大に彼女がいた事なんて何度もあったしね」


今更そんな事で揺るいだりしないし、それをきっかけに私がマホトに会いやすくなるだとかそんな下心は出てこない
…少しは動きやすくなるかもしれないけど、耕大だって一目惚れじゃん。なんてつけこめるかもしれないけど

言った傍から出て来た下心に心の中で苦笑いすると、私を見つめていたマホトも微かに笑っていた


「小姑みたいになったり？」

「！ そんな事した事ないもん」

「へぇ」


意外
それは今日二度目の言葉
何て失敬な
気に入らないのは事実だけど、私だって耕大が大切なのも間違いなく事実
幸せになってほしいとは心の底から思っているから


「…気に入らないのは、気に入らないけど」

「我慢してる訳ね」

「っ、」


えらいえらい
なんてからかうように笑いながらグラスに残った水を飲み干したマホト
それは抱きしめてくれたあの時を思い出してきゅんとする

基本的にはからかわれている
だけど彼は、彼が言ったように私にあまい
兄の様に優しくしてくれるその態度はどうしても自惚れてしまう
女として扱ってほしいと願う気持ちとは裏腹に、甘やかされている現状に喜んでいる自分がいる


「そうだよだから、マホトが慰めてよ」


じっと見つめて、言ってみる
思いついたままをそのまま
まぁどうせ無理だろうけど言ったもん勝ちだよ、そんなもの
なんて半ば自暴自棄になって

するとマホトはピタリと止まって、笑顔を消した
持っていたグラスを静かに置いて


「本気？」

「え？」


ガタン
音を立てながら立ち上がる
手を伸ばして私の腕を掴むから、私も強制的に立たされて
目を細めた艶っぽい顔が近づいてくる


「いいよ、本気なら」


慰めてあげようか

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