文系ちゃんと保護者くん (ページ36)

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「なになに？」

聞く山本と、「ちゃんと噛んで飲み込んでからな」と言う須貝さん。
頷いた後、もそもそと口の中のものを飲み込んだAさんは、

「住む場所を探していまして、」

そう述べて、水も追加で飲んだ。
住む場所？どういうこと？じゃあ今はどうしてるんだ？
話が長く、面倒になりそうな予感に従い、俺は座り込んでじっくりと聞く姿勢に入る。

「もしかして、今家無しだったりしないよね？！」

須貝さんが慌てる。
本当に心配性だな、この人は。家無し報告されたら驚くのは分かるけど。

「いえいえ、そんなことはないのです。でも、今のアパートが、もうすぐ取り壊しになる予定です」
「へぇ、急だね」

対して、落ち着いたAさんに、山本の相槌が入る。

「私が1年前に予告されていたのを忘れていて。それで先月くらいに、電話で大家さんに言われて思い出したのですよ」

さっき電話されて、それで思い出したんですよね、なんて言葉も続く。
いやいや、むしろそこまでの間、というかむしろ1年のあいだ、一切思い出さなかったのか。

「大変じゃん？！」

いや、本当に何をしているんだこの子は。
今すぐ横に入ってツッコミを入れたい、タイミングが良すぎて無理だけど、行けないけど。こうちゃんが、「……何してんの、伊沢さん」なんて声をかけてきた気もするけど気のせいだ。それよりこの状況を何とかしてくれ。

「だから、探しているのですが、」
「条件とかは？駅近とかあるよね」

慌てる年上と、落ち着いた年下たち。心配して大声を上げている須貝さんが、何故か可哀想に見えてきてしまう空間がそこにはあった。

「本屋と図書館近ならどこでも」
「部屋の広さとかセキュリティとか、もっとあるでしょ？」

新概念を生み出すAさんをスルーした山本の追加質問が炸裂する。そうそう、そういうのを重視すべきだよな。

「いや、そういうのは別に……」
「そっか……」

遠い目をしてしまう山本。どうか諦めないでほしかった。

しかし、これは難しい質問だ。
条件で絞って探すことは可能かもしれない。だがしかし、ここは日本の首都、東京。狭い土地のなかで、コンスタンスにあらゆるものが揃っている。そのうえ、交通の便はどこよりも機能している。
つまり、本屋や図書館が近いなんていう候補地は多すぎるのだ。助言をする立場としては悩むしかないだろう。最寄り駅とか家賃とかの条件を追加で言ってくれれば、もっと探しやすいだろうに。

うーんと悩む山本。