文系ちゃんと保護者くん (ページ21)

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「そのかわり、」
「？」
「下の名前で呼んでいい？」

俺の突然の提案。
それに、首を傾げる彼女。正直、俺も首を傾げたい気持ちなんだよなぁ。

「なんか、苗字で呼ぶのは変な感じがしてさ、」

実を言うと、変な感じ、とはまた違う。
でもなんていうか。彼女を、Aちゃんを呼び止められないのが、通り過ぎられてしまうのが、どうしても耐えられなかった。
この感覚は、きっと説明してもしきれない気がする。危なっかしい妹を心配する気持ち？なのかもしれない。たぶん。

「まぁ、」

変なことを伝えた手前、Aちゃんの反応が怖い。
なんでか、心臓がバクバクと脈動しているのが分かる。さっきのボールを追いかけていた時とはまた違った感じの、拍動だった。
やっぱ、年上の人から急に下の名前で呼ばれるのは嫌だよな。急に言い出してしまったし、距離の詰め方下手くそか？！って突っ込まれたらそれはそう。そうでしかない。てか俺、セクハラとか言われちゃう感じ？！

「呼ばれるなら、別に何でもいいので」

脈動と思考がうるさいなか、そんな声が聞こえた。

「呼んでもらっていいですよ」

人の名前を呼ぶのは苦手なんですけどね。なんて笑うAちゃん。よく分からずに跳ね続けた心臓が、さらにもう一回大きく跳ねた。

「うん、ありがとうな。Aちゃん」
「いえ、大したことではないですから」

そう言いながら目が本棚へ泳いでいっている姿を見ていると、うるさかった心臓も落ち着いてきた。まだ、さ行だもんな。
心臓が落ち着いてきて、頭も冷えて冷静になってくる。
そして、思い出した。
ここまで来た、本来の目的を。

「そうだ、Aちゃん。一緒に夕飯食おうよ」
「え」

どうせまだなんやろ？と聞くと、目を右に向ける。おいおい、そっちには何もないよ。
わかりやすい彼女が微笑ましい。

「また、そんときにさ、」

今日買った本のこと教えてよ。そう言うとAちゃんは、分かりましたと微笑んだ。
ほんとに彼女は大変な子だなと思わせられるよ、まったく。

～～～～～

ちなみに。本屋を出てすぐ。さっきのキャッチの兄ちゃんはまだいた。

この長時間のあいだも成果はなかったようで少しやつれた顔をしていたが、俺に気づいてニヤニヤと笑いながら見てきやがった。やめろ、そんな顔で見てもさっきのことはバラされたくないんで、お前の店は利用しないからな。