・空っぽのわたし side？ ページ8
覚えている限り、わたしはそこから出たことがなかった。
白い壁 高い天井 はめ殺しの格子付きの窓 夏は涼しく冬暖かい高床式の寝台があって、半地下の隣合った井戸から綺麗な水が流れる水路があって、いい香りのする木でできた浴槽があって、不自由なことは何もない、そんな家だった。
真っ白な布が何枚も重なった服を着ていつでも面をつけた上から黒い布を被った人が、身の回りの世話を見てくれていた。
幼い頃からその人から色々なことを教わった。食事の綺麗な食べ方 風呂での体の洗い方 髪の整え方 言葉…その人は口癖のように繰り返した。
面「おまえは特別だ。いつでも教えられた正しい所作で、正しい言葉で、綺麗に整えた髪でいなさい。」
その人は沢山の書物もわたしに与えた。
その書物のどれにも姿見に映るわたしに似たものは出てこなかった。おれは特別。この世にわたしと同じものはいない。勝手にそう思っていた。
ある時、その部屋に一人でいた時、窓を叩く音が聞こえた。
そっと覗き込んで、わたしは驚いた。
顔は似ていないが、そいつは俺と同じに見えた。目が2つ、鼻がひとつ、口がひとつ、手が2本、指は5本ずつ。
T「…おまえは何者だ？」
A「んーあたし？何者って、おもろいこと聞くなーw なんやろ、強いていてば、人間かなー？ねぇねぇ、あんたいつからここ住んでんの？名前は？」
T「わたしは、にえと呼ばれている。いつから…ずっとここに住んでいる。おまえ、名前はあるのか？」
A「あたしー？あたしはねぇ、Aやで！」
書物で見たことがある、砕けた下品な喋り方だ。わたしの世話をする人はわたしは人間で、特別だと言っていたので、わたしはこの世界に人間は私のみだと思っていた。しかしAは己を人間だと言った。
T「おまえは…私と同じなのか？ではなぜそのような言葉を使う？」
A「…同じってどういうこと？？やーたぶん、同じちゃうなー。自分男やろ？あたし女やもん。ちゃうやんなー。それに、言葉おかしいんは自分ちゃう？あんなみたいな話し方するやつ初めて見たで。」
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作者名：らむ倉 | 作成日時：2020年8月10日 0時
