I wanna dye you (ページ29)

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川に草鞋を落とした少女を助けた。人助けは当然だと教わったし、困っていたから。その少女はいつもおれに笑顔を向ける子だ。草鞋を手渡すと、クッシャクシャのいい笑顔で「ありがとぉ！！」と言った。純粋なその笑顔を、怖いとは思わなかった。

「おれいにおはなのかんむりおしえてあげゆ！」

だから、その言葉も断らなかった。

初めて、他人との交流を楽しいと思えた。そうだ、何も難しい事じゃない。みんながみんなおれに好意を向けなくてもいい。こうやって屈託のない笑顔向けてくれる人を怖がることはない。

楽しい時間の結晶。その花かんむりを、やすにあげようと思った。おれにとっては、たった1人の同居人。全てを教えてくれたたった1人の大切な人。
だけどやすは、これまでも、これからも、長い時を生きる特別な命だから。その長い旅時の、一瞬に過ぎないから。

俺の思いなんて、重たすぎるやん？

だから、言葉を伝える代わりに、感謝を込めた花かんむりを渡した。

やすが死なへん吸血鬼って、正直一瞬忘れてた。

黒い獣に殺されると思ったら、咄嗟に体が動いてた。

目の前が真っ赤になって、ああ、死ぬんかなと思った。短い間だった。お前の気まぐれだった。でも、幸せだった。やすはすぐにおれのこと忘れるんかな。それだけが悲しかった。

そんな顔、させてるのは、おれ？

こんなおれが、お前のそばに居続けていいの？

お前を、欲しいと思って、いいの？

首筋に入ってきたものは、痛くなかった。

おれの血がやすを満たしていく。

そして、おれの体に、温もりが流れ込んでくる。雪崩のように、思いが流れ込んできた。

なーんや。お前も大概、重たいなぁ…

はじめまして。

知らなかったお前の心を、抱きしめるように目を合わせた。