・お前のこと side Y ページ14
彼が意識を失ってから14日が過ぎた。
ボクが巻き戻した寿命は5日分。人の寿命を巻き戻したのは初めてだから、沢山巻き戻せば体に異変が起こってしまわないかなどもわからなかった故、最低限の時間に留めた。慌てたりあつくなるほど意外と冷静にそんなことを考えていたりするものだ。
5日前の彼も健全とは言えなかった。それに、意識がないので栄養を取れない。ほとんどの力を発散するように使ってしまったボクは、毎日回復するほんの少しの力で彼の体に最低限の栄養を送り続けた。
吸血鬼が失った力を取り戻す方法は2つ。
ひとつは、眠ること。人間の睡眠とは仕組みが違うらしい。ボク達は自然界に存在するパワーを受け取っているらしく、それは鍾乳洞の水滴のように少しずつ、毎日同じだけ得られる。眠って、生命活動をほぼ無にすれば消費が無くなるので、その分力が溜まる、という訳だ。無駄に力を発散しない限り眠りは必要ないが、今回のように一気に消耗した時は30日眠っても足りないほどだ。30日は悠久の時を生きるボクにとって瞬きする間にすぎる時間だが、人間たる彼を30日放置すれば死んでしまう。
もうひとつ、人間の血を吸うことでも力は取り戻せる。ボク達は人間とは全く別の生物だが、人間の胎を借りて産まれてくるので、人間の栄養を蓄えた血液を力に代替させることが出来る。ただしこれには血を吸ってから一定の時間が必要だ。すぐ力が回復するなら適当に見繕って血を吸って、彼を連れてその場から離れればいいが下手をすれば力が回復する前に人間にリンチにされてしまう。それに、ボクは血が好きではない。
結局ボクは、毎日人間と同じような睡眠をとってそこで回復した僅かな力を彼に注ぎ続けるという方法を選んだ。
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作者名：らむ倉 | 作成日時：2020年8月10日 0時
