47話 ページ48
「本当にすみません……」
眉をさげ、頬を紅く染めながら吉野さんが言った。バスから降りて、蒸し暑い夜風に吹かれながら歩いていく。
「気になさらなくて大丈夫ですよ。疲れてたんですから、あれくらい甘えたっていいと思いますけど。それよりも、わざわざ送っていただいて申し訳ないです」
「それこそ、気にしないでください。僕がやりたくてやってる事ですから」
そう言って優しく微笑みを浮かべた。紳士的な人だな。早希さんだけじゃなくて、私にも気をつかってくれるなんて。
早希さんを流れるようにケイさんが送っていき、一人で帰ろうとした私に吉野さんが声をかけてくれたのだ。疲れているだろうに。
「実は、美輝さんに話しておきたいことがあったんです」
「……？ なんでしょうか」
「美輝さんの退院祝いで行われた特別公演、覚えてますか？」
「もちろんです。私の退院に合わせて急遽演目を変更したんですよね？ なんだかご迷惑をお掛けしたみたいで……」
「迷惑だなんて、そんな！ 退院の話を聞いた時は僕も嬉しかったんですよ。リンドウのそばにいられるようになれば、リンドウも安心できるだろうって。
それに、僕の歌をちゃんと聴いてくれたのが何より嬉しかったんです。ちゃんと評価をしてくれる人が居るんだって、思えたから」
声色が明るくなった。心からの吉野さんの声が、辺りに響いた気がした。
「私、吉野さんの声すごく好きだなって思いました。苦しみとか悲しみとかを含みながらも、ちゃんと暖かい声をしてるんです。
聴いているだけだけど、心に沁みてくるような、そんな歌声です。あの店は弱肉強食の世界ですけど、吉野さんなりの戦い方で地道に頑張ればいいと思いますよ」
私には吉野さんの悩みは分からない。歌にかける情熱とか、プライドとか私には無いものだから。だからこそ、それを持ってることはすごいんだって知って欲しいな。
吉野さんは立ち止まって、私の顔を真っ直ぐ見つめてくる。それから、小さく笑って一言。
「ありがとうございます」
吉野さんの笑顔は柔らかくて素敵だ。私の嘘偽りに覆われた笑顔とは、比べられないくらい。視界の先で、1匹の蛾が電灯に向かって飛んでいくのが見えた。
＿＿＿＿
更新1日遅れて、申し訳ありません。バイトが急遽入ってしまい、執筆時間が取れませんでした。
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月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» いつもありがとうございます。朝桐さんもお気をつけて！ (2022年12月24日 11時) (
レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - 続編楽しみにしてます！年末年始、今年は特に寒いのでお体にお気をつけて！ (2022年12月23日 22時) (レス) @page50 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» 秋山さんのストーリーも楽しんで貰えて何よりです。次回の更新、楽しみにしていてくださると嬉しいです( *´꒳`*) (2022年10月19日 23時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - あ、秋山さーん？！？！？！ (2022年10月19日 23時) (レス) @page45 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - アルジュマさん» コメントありがとうございます。そう言ってくださると嬉しいです(*^^*)キャストネームの方もありがとうございます。意味とかも調べながら検討したいと思います！ (2022年8月21日 22時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月詠乃朱 | 作成日時：2021年7月31日 14時
