17話 ページ17
手元にある書類を何度も繰り返し目を通す。抜けはないか、書き間違えは無いか。確認をしてから書類を秋山さんに手渡した。
秋山さんは直ぐに確認を終えると、何処かに行ってしまった。行き場を失った目線をさ迷わせ、最終的には窓に目線を定めた。
幾度となく降り続ける雨模様は、この身体に憑依する前の「私」を思い出させた。
病室で寂しく何度も母を呼んだ。その代わりに傍に居てくれた彼は、何度も咳き込んでは私の手を握ってくれた。
回復の見込みも無い体と、孤独の世界に何度も絶望した。指先に感じる温もりも次第に感じられずに、また孤独になるのかと不安を募らせた。
『大丈夫だよ。あんたならきっと、大丈夫』
根拠の無い彼の「大丈夫」を何度も聞いた。
今、ここに来て初めて彼を思い出した。「私」が何もかも嫌になって抜け出した先にあった神社で出会った死人のような青年。
一緒に過ごしたのは1時間にも満たないのに、何度も私の病室まで足を運んでくれた。名前も名乗らずに、互いに知らない人のまま「私」は終わりを迎えたのだ。
彼は一人ボロボロになりながらも、私に会いに来てくれた唯一の友人と呼べる人だった。彼も決して丈夫な体では無いのに、入院することは拒む。
「私」の担当医がいくら勧めても信用出来ないって言って。
懐かしく思いながら窓に打ち付けられる雨を数えた。ぼーっとしていると控えめに鳴ったノックに返事をすると、また控えめに扉が開かれる。
入ってきたのは弟と、途中で行きあったのだろう秋山さんだった。
「明日の朝出られるように、今日の消灯時間までに荷物の整理をお願いします。退院なので、お忘れないようにしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、ニコリと笑ってまた慌ただしく病室を出ていった。忙しそうにする秋山さんとは対照的に、私と弟はゆったりと過ごす。
何処か寂しげに感じる弟に違和感を覚え、思わず手を伸ばす。頭に触れ、段々と顔に滑らせていくと擽ったいと言うように彼は目を細めた。
「ねえ、もう心配しなくて大丈夫だよ。これからはずっと一緒にいられるじゃない。また体調を崩すことはあるかもしれないけど、絶対に一人にはしないわ」
「分かってる。姉さんは絶対に僕の傍に居ようとしてくれる。でも、それでは貴方は自由になれない」
「……ふふ、私は貴方と一緒に居ることが自由だもの。それとも私に退屈な病院で過ごして欲しい？」
弟は小さく首を振った。
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月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» いつもありがとうございます。朝桐さんもお気をつけて！ (2022年12月24日 11時) (
レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - 続編楽しみにしてます！年末年始、今年は特に寒いのでお体にお気をつけて！ (2022年12月23日 22時) (レス) @page50 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» 秋山さんのストーリーも楽しんで貰えて何よりです。次回の更新、楽しみにしていてくださると嬉しいです( *´꒳`*) (2022年10月19日 23時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - あ、秋山さーん？！？！？！ (2022年10月19日 23時) (レス) @page45 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - アルジュマさん» コメントありがとうございます。そう言ってくださると嬉しいです(*^^*)キャストネームの方もありがとうございます。意味とかも調べながら検討したいと思います！ (2022年8月21日 22時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月詠乃朱 | 作成日時：2021年7月31日 14時
