11話 ページ11
自分の頬に添えられた、細く白い手。他よりも少しだけ痩せ細っているように見える身体。丈夫でない自身を責めるような表情。
そのどれもが、自分の心に隙間を作っていく。元気な姿を見れるだけで、嬉しくて幸せを感じるのは紛れもなく本心だ。
それなのに、どうしてこんなにも苦しくて悲しいのだろうか。早くに両親を亡くして、姉を失いかけて不安が拭えないでいるのだろうか。
ずっと寝たきりだった姉が自分の力で起き上がれるようになって、少しずつ元気になっているのが表情からも見て取れた。
嬉しいはずなのに、どうして…
「今にも泣きそうなんだ…」
病院を出て、スターレスに向かおうと歩いていた。さっきまで晴れていたはずの空は、少しだけ曇っている。
さっきまで嬉しいという感情があったはずなのに、今は不安で、怖くて仕方がない。
どうして僕は、こんなにも無力なのだろうか。優しく笑う姉に甘えるだけで、僕は何をしてあげられたのだろうか。
「あれ、リンドウさん?」
何となく、空を見上げながら歩いていると聞き馴染みのある女性特有の高い声が、耳に入ってきた。
「早希さん、と銀星」
「おつかれ。これからスターレス行くのか?」
「はい。お二人もですよね?良かったらご一緒しても?」
「私は構いませんよ」
早希さんに続いて了承する銀星にお礼を言い、一緒にスターレスに向かう。今は一人でいたくなかったのだ。
公演中のFragile Lakeについての話をしながら歩いていく。キャスト側からの意見と、お客様側からの意見の両方を聞くいい機会だった。
沈んでいた自分の心を忘れて二人と話をしていると、銀星と早希さんは互いに目線を送り合うと僕に視線を向けてきた。
「なぁ、何かあったのか?」
「え?」
二人の顔には心配の色が混じっていた。僕はさっきまでどんな顔をしていたのだろうか。心配かけてしまうほど酷かったのか。
はたまた、上手に笑えていなかっただけなのか。パフォーマーであり、役者でもあるはずの自分が不安を顔に出していたのか。
「えっと、さっき見掛けた時にあまり元気が無いように見えたので……。気のせいだったらすみません。」
黙りこくってしまった僕に、焦ったように言う早希さん。この話は彼女にするべきことでは無い気がした。
これは僕自身の問題で、彼女はお客様にすぎない。そんな考えが頭を過ぎり、咄嗟に否定をしてしまった。
「いえ、ご心配をお掛けしてすみません。何もありませんよ。僕は、大丈夫ですから」
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月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» いつもありがとうございます。朝桐さんもお気をつけて! (2022年12月24日 11時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - 続編楽しみにしてます!年末年始、今年は特に寒いのでお体にお気をつけて! (2022年12月23日 22時) (レス) @page50 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - 朝桐さん» 秋山さんのストーリーも楽しんで貰えて何よりです。次回の更新、楽しみにしていてくださると嬉しいです( *´꒳`*) (2022年10月19日 23時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
朝桐(プロフ) - あ、秋山さーん?!?!?! (2022年10月19日 23時) (レス) @page45 id: db8064d0f2 (このIDを非表示/違反報告)
月詠乃朱(プロフ) - アルジュマさん» コメントありがとうございます。そう言ってくださると嬉しいです(*^^*)キャストネームの方もありがとうございます。意味とかも調べながら検討したいと思います! (2022年8月21日 22時) (レス) id: 3679865769 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月詠乃朱 | 作成日時:2021年7月31日 14時