夕空 ページ30
久々に訪れた病院は、相変わらず病院特有の楽品の匂いで満ちている。
すっかり顔なじみになったカウンターのお姉さんが私を見るなり「太陽くんね」とにっこり微笑んだ。
「太陽くんなら今リハビリルームにいるわよ」
「リハビリ……？」
「でももう少しで終わるから部屋で待ってた方がいいかも」
親切に「リハビリルームにも連絡いれておくね」と言ってくれたお姉さんにお礼を言って階段を上がる。リハビリ。リハビリということは、もしかして治る見込みがあるのだろうか。
そもそもの話、私は太陽の病気の症状を詳しく知らない。それは太陽が話さなかったというのもあれど、詳しく詮索することを留めた私なりの理由がある。
もし、………治るのなら、太陽は自由にサッカーが出来るようになるのだろうか。
雨宮太陽、と書かれた病室に入ると、いつもと違う違和感に気づいた。机の上に何冊も本のような何かが重ねられている。
「………教科書、…」
中学1年の内容の国語、数学、地理、技術。そのほかにも中学で勉強する内容の教科書がただただ置かれている。
「A！」
がらっと突然開かれた扉に思わず肩がびくっと揺れた。振り返り、声の元を見るも、ここは1人しか帰ってくる人はいない。
「太陽…え、今走ってこなかった？」
「いや、競歩だよ」
「あ、そう…？じゃなくて、この教科書…」
「僕、退院出来ることになったんだ」
突然、満面の笑みでそんなことを言うものだから反応が遅れてしまった。
「…え、」
驚いて太陽をまじまじと見ると「まだ少し期間はあるんだけど、容態が安定してきたんだ。これならサッカーをしても問題ないって。昨日からリハビリ始めて、」と嬉しそうに笑った。
「太陽…」
「僕に何か言うことない？」
「……おめでとう。ほんとに」
「……ありがとう。1番に報告できたのがAで良かったよ」
ふんわりと、太陽がまた笑う。そして次の瞬間「文化祭のお菓子どれ？」と机に置いた紙袋を漁りだした。
「…………もうちょっと余韻に浸ろうよ太陽」
「あ、ブラウニーだ。美味しそう。ね、食べていい？」
「聞けよ」
私の言葉を軽くスルーした太陽は戸棚から紙皿とフォークを取り出して既にブラウニーを切り分けていた。私が尋ねるたびに早くなる手際の良さに感心する。
「Aのカップはそこ」
白クマの描かれたカップは私の専用カップだ。太陽のキリンのカップの隣に綺麗に置かれていた。
ラッキーアイテム
革ベルト
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キャンプ - 思い出しては読み返す大切な作品です。私事ですが拙作ばかりですが文字書きとして活動しています。想像を文字に起こすことは楽しいです。私も、定期的に読みに来てしまうような誰かの心に残る作品を書けたらと、初心を思い返すような気持ちでここに戻ってきます。 (2022年10月18日 0時) (
レス) id: 0d3ae99a04 (このIDを非表示/違反報告)
鯖 - 小学生のころkurehaさんの小説に出会って、10年以上何度も読み返しています。作品を残しておいてくださって、ありがとうございます。完結していなくても、私の中ではまだこのアリスの世界が続いている気がします。大好きです (2021年3月14日 17時) (レス) id: 5fb21310e9 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - キャップさん» 私も大学生になりました。もう占いツクールに没頭するような歳ではなく大人になりましたがシエラザートとアリスは今でも大好きな作品です。 (2020年9月17日 14時) (レス) id: 2790829628 (このIDを非表示/違反報告)
キャップ - 菊華さん» 大学生になりました。ふとしたときに思い出して読み返す作品です。ずっと好きです。一年前、残したメッセージがそのままで笑ってしまいました。勝手にお世話になってます。ありがとうございます (2020年7月30日 1時) (レス) id: 0d3ae99a04 (このIDを非表示/違反報告)
キャップ - 今もずっと大好きな作品です。気がつけば五年経っていますが、何度も、楽しく読ませてもらっています。ありがとうございます。 (2019年8月17日 17時) (レス) id: 1d4f5f1e49 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：kureha | 作成日時：2012年7月1日 17時
