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満月 ページ33

紙に「ありがとうございました」と日本語で書いてテーブルの上に置く。荷物をまとめ(元からそんなにはなかったが)、ベッドメイキングを見様見真似で行い、着ていた服を全て畳んでおき懐かしい服に着替えた。久しく着ていなかったがトレンチコートには皺もなく、アイロンでもかけておいてくれたらしい。その優しさがまた身に染みる。

空は夕刻を過ぎ紺碧に染まり、月が眩しく道を照らしている。これなら道は分かりそうだ。正面玄関には夜番の衛兵がいるため、出入り口はここの窓しかない。Aにとってはそれは関係ないことだが。まさかオビさんの特訓をこんなところで活かすなんて、自嘲を思わず零した。

そして、今まさに飛び降りんとした時、引き留められるように一瞬強く風が吹いた。そして背後に人の気配を感じ、窓枠に足をかけたまま首だけで振り向く。そこには、最後には会いたくなかった愛しい彼の姿。



「オビ、さん…」

「…行くのかい」



眉を下げてそういう彼は少し悲しそうだ。どうして彼がそんな表情をするのだろう。やめて、最後に希望を持たせないで。



「…皆、アンタには出て行って欲しくないと思ってるよ」

「…だからですよ。私だって、皆と離れたくない…!」

「だったら!」

「でも!」



月を背にしている私の表情を、彼は読めないだろう。きっと、酷い顔をしてるんだろうなあ。



「私のエゴでしかないです、これ以上関わってしまったら、本当に、本当に離れられなくなる…!!いつ消えるのか分からない、皆と突然引き離されるかもしれない、そんな恐怖に怯えながら日々を過ごせる程、私は強くない!!」

「…ッ」

「だったら一人で…消えて行った方がマシですよ…」



そういうと彼は黙ってしまった。そちらの方が私にとっても都合がいい。…これ以上喋ってしまったら頑張って留めている涙が零れそうになるから。

本当は一人で消えて行くのだって怖い。当たり前だ、だって既に死んでいる私はこの世界でも消えてしまったら何処に行ってしまうんだろう。



「……引き留めないでくださいね、心が揺らいじゃいますから」

「…引き留めないよ。アンタが行きたいところに行けばいいさ」

「…ふふ、最後まで、本当に酷い人ですね…ッ。

____さようなら」



私はその言葉を最後に飛び降りた。だからその後彼がなんて言っていたかなんて知らない。



「何処へでも行きなよ、A。俺は絶対アンタを見つけだすから」



その言葉は、月だけが知っている。

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設定タグ:赤髪の白雪姫 , オビ , トリップ   
作品ジャンル:アニメ
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紗夜(プロフ) - 何回も読んで、もう文章覚えてきたけど、大好き。 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 17bb863b6a (このIDを非表示/違反報告)
フルリ(プロフ) - Hinanoさん» こちらこそコメントありがとうございます!!!キュンキュンして頂けたでしょうか!?そう言って頂けて嬉しい限りです...ぜひとも続編もよろしくお願いします! (2019年7月30日 13時) (レス) id: d10d29f4b8 (このIDを非表示/違反報告)
Hinano(プロフ) - 本当に本当に本当に素敵なお話でした…吹き出しちゃうくらい面白くて、でもきゅんきゅんして…素敵な時間をどうもありがとうございました! (2018年6月25日 7時) (レス) id: 853b5b9878 (このIDを非表示/違反報告)
フルリ(プロフ) - ちぎょさん» ちぎょさん、コメントありがとうございます!割と本気で泣きそうになりました!笑私も赤髪のキャラ皆好きで、個性を大切にしたいと思っていたので、そう言って頂けて本当に嬉しいです。こちらこそ、沢山のお言葉にとても励まされました!リクエスト、待っています!笑 (2018年4月29日 19時) (レス) id: b6276197f5 (このIDを非表示/違反報告)
ちぎょ(プロフ) - すみませんふざけましたが本当に。直接伝えたいなあ、こんなに素晴らしいお話を書いてくれてありがとうございました!!続編のリクエスト、ちょっとじっくり考えます笑。長々とすみませんでした。 (2018年4月29日 13時) (レス) id: 2a62607b53 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:フルリ | 作成日時:2018年4月16日 9時

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