十二 ページ17
そう言って手を振り窓から出て行く彼にお辞儀をする。大事にするのなんて当たり前だ、どういう心境か分からないが好きな人に貰えるんだ、墓まで持って行くに決まってるでしょう。
だけどあの場面を彼に見られるとは思っていなかった。今は監視役でも何でもないが、このことはゼンさん辺りに報告されると思う。…どうしよう、かな。ただ調子が悪いだけにしておこうか、だけどゼンさんの蒼い瞳の前で嘘を貫き通せる自身が私にはない。
▽△
煮詰まった頭で考えを生地に混ぜこねてなくすように、ぐにぐにとパイ生地を作る私。今日はアップルパイ、ただ少し私の感情が入ってしまっていて味に影響が出てしまっているかもしれない。
今日は薬室の手伝いはお休みだったのでこうやってお菓子を作っている次第だ、因みに材料は自費である。この前念願のお給料が出ました。だけどまだ出て行くには安心し得ない額なのでもう少し出て行く頃合いは見計らっている。
薬室に出来上がったそれを持っていくと大層喜ばれた。全部渡しても良かったのだが、そんなには貰えないといくつかは自分用に持たされた。それをいつかの日のように窓際でティータイムのおやつにしようとする。
それを置いて紅茶を淹れていると、ざあっと風が吹いて髪の毛を遊ばれる。こんな今日風強かったか?と思いながらアップルパイが飛ばされていないか見にいくと、そこには朝出会ったオビさんが窓枠に足をかけていた。
「あっ、ぶねえ」
「ちょっとオビさん!!危ない!!」
「ごめんごめん、まさかまたティータイムしてるとは思わなくて。俺も混ぜてよ」
「…良いですけど。椅子は自分で用意してくださいね」
やった、と小さく笑う彼に私も笑みを返す。今日はもう仕事休みなのだろうか。
「まあちょっとしかいられないけどねえ。主のところ秘密裏に抜け出して来たから」
「…それはサボりって言うんですよ」
「騎士様も大変なのさ、書類仕事にね。息抜きくらいさせてくれよ」
成る程、確かに体を動かすことがメインなオビさんに書類仕事は酷だろう。お疲れ様です、と労りの言葉を述べて紅茶を出す。お茶会なんてオビさんには様になってはいるけれど似合わない。勝手に一人で食べ始めた彼の姿を見て一人で笑う。私もそろそろ食べよう、お菓子は出来立てを食べるのが一番美味しい。
席に座ろうと屈むと垂れた髪の毛をオビさんが手に取った。あ、紅茶に入りそうだったか。すみません、と謝ると首を傾げられた。
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紗夜(プロフ) - 何回も読んで、もう文章覚えてきたけど、大好き。 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 17bb863b6a (このIDを非表示/違反報告)
フルリ(プロフ) - Hinanoさん» こちらこそコメントありがとうございます!!!キュンキュンして頂けたでしょうか!?そう言って頂けて嬉しい限りです...ぜひとも続編もよろしくお願いします! (2019年7月30日 13時) (レス) id: d10d29f4b8 (このIDを非表示/違反報告)
Hinano(プロフ) - 本当に本当に本当に素敵なお話でした…吹き出しちゃうくらい面白くて、でもきゅんきゅんして…素敵な時間をどうもありがとうございました! (2018年6月25日 7時) (レス) id: 853b5b9878 (このIDを非表示/違反報告)
フルリ(プロフ) - ちぎょさん» ちぎょさん、コメントありがとうございます!割と本気で泣きそうになりました!笑私も赤髪のキャラ皆好きで、個性を大切にしたいと思っていたので、そう言って頂けて本当に嬉しいです。こちらこそ、沢山のお言葉にとても励まされました!リクエスト、待っています!笑 (2018年4月29日 19時) (レス) id: b6276197f5 (このIDを非表示/違反報告)
ちぎょ(プロフ) - すみませんふざけましたが本当に。直接伝えたいなあ、こんなに素晴らしいお話を書いてくれてありがとうございました!!続編のリクエスト、ちょっとじっくり考えます笑。長々とすみませんでした。 (2018年4月29日 13時) (レス) id: 2a62607b53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フルリ | 作成日時:2018年4月16日 9時