米花町の音楽家 (ページ38)

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Op.6-13 ページ38

幼少期から海外で活動していた彼女の活躍ぶりは、私も小さい頃から知っている。

初舞台のジュニアコンクールで優勝。最年少記録を更新し輝かしいデビューを果たした。
その後もコンサートなどを通して注目され続け、数年の休止期間はあったものの、出たコンクールでは必ず優勝する絶対的な実力者だ。
事実、私も彼女から王座を奪えなかった。

そんな彼女が2位。

ピアノ界を騒がせるどころか、世界中の音楽家が飛び上がる大椿事(だいちんじ)だ。

「ジュネーヴって、ジュネーヴ国際コンクールのことだよね？」
『そだよ。かの有名なスイスでやるやつ』

一応コンクール名を確認するもやはり間違いはない。
『ジュネーヴ国際コンクール』は世界三大コンクールほどではないが、それなりに権威のある国際大会。名のあるプロの音楽家達により厳正な審査が行われるはずだ。

じゃあどうして。

私は顎に手を当て、彼女が優勝を逃した理由について考えた。
自然と歩くスピードが緩まる。

体調が悪かった？
指を痛めた？
ハプニング？

あれやこれやと思いつくものをあげるがどれもしっくりこない。

仮にコンディションが最悪だったとしても、彼女なら、李春玲なら、絶対に完璧な演奏をするはずなのだ。
それだけは確信できる。何故なら、私は彼女の異常なプロ意識を知っているから。

………………………………となると

"実力で負けた、と考えるのが妥当か"

そう頭の中で結論づけ、突き当たりの角を曲がる。

床に向けていた視線をあげると、異様な光景が飛び込んできた。

私は一切の思考を捨てスマホを持ったままその場で固まる。

この子、蘭ちゃん達と一緒にいた子だ。