米花町の音楽家 (ページ28)

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Op.6-3 ページ28

え、これに乗るの…………？

指定されたホームにあるのは蒸気機関車。
何度もホームの数字を確認するが間違いない。

てっきり普通の電車に乗るものだと思っていた私は、想像とは違うお洒落な列車を前にぼーっと立ち尽くす。

ちょうどそこに車掌さんが来た。

「す、すみません。このリングの電車ってこれですか？」

私は持っていたパスリングを見せながら、止まっている機関車を指差して尋ねる。

「そうですよ。今回の謎解きもご期待ください」
「謎解き？」

私がそう聞き返すと同時に、発車の合図であるベルが鳴り響いた。
それを聞いた車掌さんがハッとした様子で私に向き直る。

「そろそろ発車時刻ですのでご乗車下さい。推理クイズが出されるまでお部屋でお待ち下さいね。それでは良い旅を」

そう言ってお辞儀をし、慌ただしく先頭車両の方へ走っていった。

「推理クイズ…………？」

残された私は、何の説明をされたのかよく分からず首を傾げる。しかしすぐに我に返り、急いで列車に乗り込んだ。

♦

暇。

特急に乗った後、1人でこの少し大きめの個室に閉じこもり、ひたすら窓を見ていた。
最初こそわくわくしたものの、山の中に入ってからずっと緑の景色。流石に飽きてきた。

「由美たち、連れてくるんだったなぁ」

窓の外を見ながら、ため息混じりに呟く。

一応昨日、2人を誘うことも考えた。
しかし、美和子が爆弾事件に巻き込まれたと聞いていたので、なんとなく誘いづらくてやめてしまったのだ。
昨日の自分の判断を少し後悔する。

再び過ぎていく、ゆっくりとした時間。

1人の静かな空間で電車に揺られていたら、今度は睡魔が襲ってきた。いつもならあっさり負けを認め寝るところだが、折角この豪華列車に乗っているのだ。

私は頬をつねり、席を立った。
そして部屋の扉を開ける。

───目の前を、よく知る人物が通り過ぎた。

「あ、あ安室透……………………さん……？」

反射的に、上ずった声を発してしまった。

その声に反応して相手も振り返る。

何故こうも運悪く会ってしまうのだろうか。

先日醜態を晒してしまった相手と豪華列車で鉢合わせるなんて、一周回って運が良いのかもしれない。