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「…で、なにもなかったんだ？」
屋上の心地良い風を受けながら彼女の声に耳を傾ける。
先程まで脱いでいた制服のシャツを肩に羽織り、無邪気な顔で尋ねてきた。
綺麗に巻かれた栗色の髪が彼女のトレードマーク。
「全く。なさすぎて逆に怖いもん、なんか企んでそう」
「もしかして仲悪い感じ？」
「悪いっつーか、多分嫌われてんだろうなって」
「そんなのわかんないじゃん！これをきっかけに仲良くなるかも」
「…本気で言ってる？」
深刻な顔で横を見れば、彼女は口の端を上げて悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
さすがに声のトーンで冗談だってのはなんとなくわかってたけど。
仮に俺が仲良くなりたいと思ったとしても、それが実現する確率は街角でパンを咥えた女の子とぶつかるより低いだろう。
「ないない！俺と松村はなんかこう…属性が違うっていうか」
「確かに正反対かも。あ、でも松村くんも話すと案外笑ってくれたりするよ？」
「あいつが？」
「うん。中学同じで、何回か話したことあるし」
「なにそれ、初耳なんだけど」
彼女はスマホを何度かタップし、画面をこちらに向ける。
映っていたのは"〇〇中学 卒業式"と書かれた看板の横で、大人数が肩を組み合ったりピースしている写真。
このご時世プライバシーだのなんだのうるさいってのに、警戒心もなく第三者に見せちゃっていいのか。
なんて思いながら結果的に見てしまっている自分も悪い。
「後列の一番右端にいるのが松村くん」
そう言われた数秒後、キラッキラな笑顔で真ん中に座り込んでいる人がふと目に入る。
見覚えのある顔に俺は目を丸くした。
「え…まって、これってきょも先輩？」
「うん。この日学校に来てたらしくて、一緒に撮ってもらったの」
京本大我、通称きょも先輩は文字通り3年生の先輩だ。
王子様のようなビジュアルを持つ彼はとにかくオーラが凄く、いつもキラキラしていて、学校の中でも目立つ存在。
もちろんそんな彼を周りの女子は放って置くわけがなく、きょも先輩の友人である�眞論菁无�く"彼の人生には大体彼女がいた"らしい。
それにしても松村の笑顔はぎこちない。
しかもカメラ目線できてないっていうか、きょも先輩の方を見てるみたいな。
…気のせいか。
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作者名：羽瀬 | 作成日時：2020年7月2日 1時
