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小さいときから、
動物園よりも、遊園地よりも、
もっと言えば公園やおもちゃ屋よりも、
水族館が好きだった。

実家から、一駅のところにある
水族館に、ハードなサッカー部の練習終わりに通った。

何か特別な展示がある訳でも無かった。

そのなかでも一番好きだったのは、
クラゲの水槽の小さなエリアだった。

ただ浮いているだけのクラゲは、
触れたら柔らかくて
気持ち良さそうなのに、

実際は触ると刺されて痛みが走る。


ずっとクラゲばかり時々眺めに来る
高校生は、かなり異質だったのだろう。

ある日、ひとりの館員が声を掛けてきた。


「どうしてクラゲなんですか」


「は・・・」


何とも間抜けな返事をした俺は、
少し浅黒く焼けた肌の彼を見つめ返した。
年齢は若く見えるが、落ち着いた雰囲気を身にまとっていた。


「えと。いやなんとなくっす」


「そうですか。
熱心に見ているみたいだったので。」


まるで職務質問みたいだ。

頭の片隅でそんな風に考えていると、
しばらく無言を貫いていた彼が口を開いた。


「クラゲは、
体の95パーセントが水で出来ていて、
脳を持ちません。

泳力もすごく弱くて、
水の流れで勝手に流されてしまいます。」


彼の余命宣告をするような口調が
そんな気にするのかもしれないけれど、

なんて不憫なやつなんだろう、と俺は思った。

目の前の水槽で漂うクラゲたちは、
そんな酷な生命を宿されて
生きていくのか。


水槽にそっと、
触れるように乗せた彼の左手は、

日に焼けた健康的な肌とは反対に、
紅く痛そうに荒れていた。


「でも、クラゲは、
その触手を切られても死にません。

また新しく生え変わってきます。

雄がいなくても、雌だけで生殖することもできる
種もいます。」


そう告げる横顔は、とても美しく見えた。


「自分の意志で動くことも、
考えることも、
まるで出来ないのに。

孤独に、生きていくことが出来ます。

俺は、そんな所が好きです。」


青白い水槽の灯りが、
彼の横顔によく映えていた。

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設定タグ:藤北 , 宮玉   
作品ジャンル:恋愛
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(プロフ) - 魚さん、いつも何度も読ませて頂いてます。やっぱりこの水族館の2人が好きです!!出来たらその後、見てみたいなーなんて‥‥宮玉のその後も気になるし!!!!!!!ぜひご検討ください!これからも楽しみにしてますね (2020年7月14日 19時) (レス) id: d24532fdd2 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - たいちゃんらぶさん» コメントおありがとうございます!私の占ツク最初の作品です…笑 今非公開にしてしまいましたが、藤北の過去やその後のお話を書いていたのですが…終わりが見つからず一旦ここで完結させて頂きました!書いていた続編だとかなり藤ヶ谷くん、悪い男の設定でした…笑 (2019年1月28日 22時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - puuさん» コメントお返事遅れてすみません( ;∀;)初めて書いた作品で、伏線など考えずに書いたので後から読み直して自分でも?な部分があります…笑 そう言って頂けて嬉しいです!気が向いたら番外編書きたいと思います〜! (2019年1月28日 22時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
たいちゃんらぶ(プロフ) - かわゆいですねっ♪完結おめでとうございます(/ω\)このラスト・・ときめきますね♪2組のその後・・いつか見たいなー♪(←又ww) (2019年1月28日 21時) (レス) id: 0f3cc9e55e (このIDを非表示/違反報告)
たいちゃんらぶ(プロフ) - 魚さーん(/ω\)水族館!!わたし読み落としていたみたいで(´;ω;`)ウッ…初めて読みましたー(一気読み♪)宮玉ちゃん・・優しい宮っちと健気な玉ちゃん・・愛おしい・・初恋も・・今恋も・・やっぱり(〃▽〃)ポッあーーーすてきです。よこーさんに相談しちゃうふたり (2019年1月28日 21時) (レス) id: 0f3cc9e55e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年7月17日 1時

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