弐頁目 ページ12
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怪異の出す音は一つだって無くなって、路地裏には玄矩の後ろにいる一般人から鳴る嗚咽のみしか聞こえなかった。玄矩はこの声が泣き声であると判断するのに数秒の時間を要した。くるりと振り返り、一般人に声を掛ける。成人した女性と娘らしき少女。
「えーっと……だいじょーぶ?」
「はっ…あっ…、ありがとうございます…! 行くよめい…!!」
こういう時は取り敢えずでも「大丈夫?」と聞いておくよう、攸に教えられていた。それを思い出した玄矩は言われた通りにしたのだが、女性は玄矩と目を合わすことなくうわべの感謝を伝え、足早に少女を連れて去っていった。
…やはりこの言葉に意味は感じられない。
玄矩は地面に落ちている腕を拾い上げ砂を落とすと、そのまま腕にかぶり付いた。ギリギリと玄矩の歯と怪異の腕の皮が軋むように音を鳴らし、ついには歯が腕に突き刺さった。路地裏の外へと向かいながら噛み千切り、よく噛んでからごくんと飲み込んだ。
「? アイツ弱かったのに美味いな…どういう…」
「あ、玄矩くん。また怪異食べてるんですか? お腹壊さないでくださいね」
「トンボよりは美味しいから平気だよ」
じゅるじゅると血を吸いながら歩いていると、後から駆け付けてきた攸と鉢合わせになった。攸は珍しく目を開くと、怪異の腕にかぶりつく玄矩に首を傾げてまた目を伏せた。
そして間も無く降ってきたのは怪異について。玄矩は特に強い様子は無く、被害者も無事元気に逃げていった事を伝えた。
「でも変だな、コイツ肉質
「美味しいんですか。呪術は?」
「使われる前に祓った」
「なら強いも弱いも判断しにくいでしょう」
「そーかな?」
玄矩は腕の骨を先に抜くと、口にぎゅうぎゅうに肉を詰め込んだ。
「あ"ぁ………」
あの夜から数日。からりと晴れた昼間、玄矩は辺りのカフェでハンバーガーを食べていた。やる気もなく声を出してみたのは、なんとなく魂が抜けてしまいそうだったから。つまり暇なのである。夜から明け方にしか出てこない怪異を相手にするということは、そういうことでもある。
グレープ味の炭酸を購入し、蓋を開けながら歩いていると不意に路地裏から少女が飛び出し、玄矩の膝辺りとぶつかった。どてんっ、と弾かれた少女は地面に転がる。「エッ」玄矩は転がった少女に前髪の奥で目を見開いた。
そして少女は玄矩を見るなり言った。「お兄ちゃん助けて!!!」
「…はァ?」
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R!N(プロフ) - すんげぇ…かっこいいですね (2019年12月13日 0時) (レス) id: 5067a2983b (このIDを非表示/違反報告)
くろせ(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます、勿論です! 是非描かせて頂きたいです! (2019年10月21日 0時) (レス) id: 62819c8559 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - わ〜ツツフォーマルな玄矩君めっちゃかっこいいです…!優先順位は低めで大丈夫なので、暇ができましたら攸のドレスコードを描いていただけないでしょうか…?よろしくお願いします! (2019年10月20日 23時) (レス) id: a16637a9e2 (このIDを非表示/違反報告)
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