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何が起きたのか分からなかった。
一言で表すならそう。
──人が疎らになってきた夕方の図書室。
分厚くていかにも古そうな本が敷き詰められた、歩み寄る生徒も少なく図書委員からも死角になる1番奥の本棚。
私の腕を引っ張ってここまで来た拓弥さんは、名前を呼んでも振り向いてはくれなかった。
思惑が全く読み取れない展開に戸惑う私は、分からないなりにそれを考え、絞り出した結果浮かんできたのはやっぱりこの間から気になっていること。
「あの、なんか怒ってます?よね?」
私がそう口にするとやっと振り向いた拓弥さん。
「怒ってはないけど、……ちょっと拗ねてた」
「……なんでですか?」
予想だにしない回答に目を丸くする私とは対称的に、拓弥さんは伏し目がちになって短い溜息を吐く。
「……柊生と仲良いじゃん」
何を言い出すかと思えばそんな台詞。
ふたりの間に微妙な空気が流れ、次の瞬間拓弥さんが私の両手首を掴んで壁に押さえつけた。
プチパニック状態に陥った私は目を泳がせる。
「修学旅行の間の昼、柊生に行かせるんじゃなかった」
「え、私は助かりましたけど、」
眉間に皺を寄せた拓弥さんはグッと距離を詰めて、私の唇に噛み付いた。
びっくりするぐらい熱いキス。
閉じる暇もなかった瞼は気付いたらぎゅっと瞑っていて、途中入ってきた舌に驚いた反射で開いたけれど、また無意識に閉じていた。
拓弥さんが角度を変えるたび私は酸素を求めて息を切らす。
逃げても追ってくる舌に体温と心拍数は上がるばかりで、頭がぼーっとして拓弥さんのことしか考えられなくなる。
どれぐらいの間そうしていたか分からないけれど、しばらくして拓弥さんは私から離れた。
離れてもなお息を整える私を黙って見つめる。
あれだけ濃厚なキスをかましておいて、自分はけろっとしている拓弥さんに経験値の差を感じた。
「ふぁ……ファーストキス……なんですけど……」
スカートの裾をきゅっと握り、か細い声を出す私。
「えっ……、それは、……悪かった、」
私の反応に目を丸くすれば、ぱっと私の手首を押さえていた手を離し、焦りを滲ませた表情を浮かべて謝る拓弥さん。
……謝ってほしかったわけじゃないのに。
恥ずかしさのあまり目はおろか拓弥さんの顔も見れず、小さく「帰る」と呟いてから、肩にかけっぱなしだった鞄を持ち直して私は足早にその場から立ち去った。
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作者名:ハナコ | 作成日時:2016年5月2日 23時