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「球技大会の日って購買開いてないじゃん?」
「そうなんですか?」
「あ、Aちゃん初めてか。球技大会と体育祭と文化祭の日は、購買も食堂も閉まってるんだよ」
球技大会が初めての私に祐基さんが詳しく教えてくれた。
球技大会は夏休み前の一大イベント。
「朝早いからコンビニも行けないじゃん?」
「コンビニって24時間営業なの知ってる?」
「知ってるわ!開いてないとは言ってない」
「じゃあ寄ればいいんじゃないの」
いつになく冷静な茉衣さんの尤もな意見。
祐基さんが「早起きできないもん」と口を尖らせると、茉衣さんは「知らんがな」と溜息を吐く。
「でさ、昼飯困るから茉衣にお弁当を頼んだわけ。なのに!この子、作らないって言うんだよ」
「祐基ママに言えば?去年も一昨年も作ってもらってたでしょ?」
「俺は茉衣の愛妻弁当が食べたいんですけど」
「誰が愛妻?なった覚えないから」
手で顔を覆って泣き真似をしながら訴えかけていた祐基さんが、茉衣さんの冷たい言葉に項垂れた。
付き合ってるわけじゃ、ないんだ……?
私の中で曖昧だったところが微妙に明らかになる。
「祐基はさておき、Aちゃんはどうする?球技大会のお昼」
「あ、私は前まで自分で作ってたので……作ろうかなーと思ってます」
「そうなの!? 料理できるのすごい」
「いやっ、全然!簡単なものしかできないです」
茉衣さんの期待度が目の輝きに滲み出ていて、私は慌てて片手を振って否定した。
「それってふたり分とかできたりすんの」
「…………へ」
急に聞こえた拓弥さんの言葉に間抜けな声が漏れる。
「ちょっと待って。草川、作ってもらう気?」
「だったらなんだよ。別に無理強いじゃなくて、できるか聞いてみただけだから」
茉衣さんに鋭い目を向けられても拓弥さんは淡々と言った。
私が「一応できますけど……」と小さく拓弥さんの問いに答えると、茉衣さんと祐基さんが今度は私に視線を移す。
「いやいやいや。拓弥だけはずるいよね?」
「私もAちゃんのお弁当食べたい」
にっこり笑って拓弥さんの肩に手を置く祐基さんと、眉を下げて困り顔で私を見つめる茉衣さん。
「じゃあ、ちょうどお土産のお礼もしたかったので、先輩たちの分も作ってきます」
この状況が私にとって嬉しくないわけがなくて、へらりと笑ってそう告げると、茉衣さんと祐基さんの顔がぱあっと明るくなった。
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作者名:ハナコ | 作成日時:2016年5月2日 23時