ゆめうつつ【１】 (ページ3)

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「ふ、っうう……」

誰も居ない靴箱の前、しゃがみ込んだ私は泣いた。

この世には報われない努力もある。

もしかしたら、足りなかったのかもしれない。
でもどうしていれば太陽くんに振り向いてもらえたのかも、私には分からない。

「──……もしもーし」

突然聞こえた声にびくっと肩を震わせ、反射的に顔を上げる。

電話の話し声が聞こえたのかと思いきやその声はどうやら私に充てられたものらしく、視線の先のその人の目には私が映っていた。

「ひとりで何してんの。腹でも痛い？」

「……え、っと……、」

「泣いてる女ってクソ面倒臭いよ」

首の後ろに右手を回したその人は、じっとこちらを見つめて溜息混じりに吐き捨てた。

……さすがに初対面の人にそれはないんじゃない？

「ちょっと、」

「お前、佐藤Aでしょ」

「え」

あまりの口の悪さに言い返してやろうとするも、今度はいきなり名前を当てられてつい固まってしまった。

そんな私を放ってその人は端っこの靴箱へ向かう。

見えなくなった姿に何だったんだと頭にハテナを浮かべていると、スニーカーに履き替えて玄関の方へ出てきた。

当然ながら、今から帰るところだったらしい。

静かな空間に響く足音に無意識に目をやる。

その人が私の方に振り向いたことにより、さっきは窓から射し込む夕日の逆光で見えにくかった顔がはっきりと見えた。

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