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「キャラメルソース、たくさん付けた方が美味しいですよ」
あんまり付いてないところを取ったように見えたから、一応そう伝えてみる。
もしかしたら遠慮だったのかもしれないけど、せっかくのアーモンドキャラメルなのになんだか勿体ないような気がして。
「じゃ、もう1口食べてい?」
私が「どうぞ」とお皿を差し出すと、今度は助言通りキャラメルソースを付けてから食べる拓弥さん。
「これめっちゃ美味い」
拳を口元に当てて感想を零す顔が、小さい子どもが新しい何かを見つけたときみたいに輝いていてちょっと微笑ましくなる。
こんな顔もするんだ。なんか意外。
「口の中、なんもない?」
「え?はい」
私に確認した拓弥さんは自分のパンケーキを切って、器用にいちごまでフォークに刺し、こちらへ差し出した。
「……こんなにですか?」
「うん。だって俺、2口もらったし」
多めに感じる量に質問してみるも、「何か?」って顔で答えられてそれ以上何も言えなくなる。
フォークで出されているものをフォークで受け取るわけにもいかないし、言葉がないにしろ完全に「あーん」されているこの状況に緊張が走った。
「ん。」
黙る私に向かって「ほら」とでも言うようにさらにフォークが近付けられ、どうすることもできないから私はそれを口に入れた。
いちごチョコレートなんて美味しくないはずがないんだけど、真剣に味わえない。
「美味いでしょ」
もちろん美味しいのは美味しいからとりあえず頷いて、どこか嬉しそうに笑う拓弥さんを見つめた。
「いいなぁ。俺もいちご食べたーい」
「!」
私の斜め前に座る祐基さんの台詞にハッとした。
祐基さんは眉を八の字に下げて口を尖らせていて、隣を見れば茉衣さんも拓弥さんと私を交互に見ながらにやにやしている。
……「あーん」の現場を目撃されたっぽい。
ふたりとも隣に座ってるんだから当然と言えば当然。
急に恥ずかしくなって自分のパンケーキをそそくさと食べ始める私の隣で、茉衣さんは小さく笑っていた。
そのあと自分のいちごが減ると言いながら渋々祐基さんにも分けてあげた拓弥さんは、さっきの状況をふたりに見られたことは分かっていたはずだけど、特に気にしてなさそうだった。
やっぱりそういうのは気にならないタイプなんだ、と思った。
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作者名:ハナコ | 作成日時:2016年5月2日 23時