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中学の頃から引きずっていた初恋。
その恋は高校に入学してすぐに散った。
──彼の名前は松尾太陽くん。
……私は、気付かなかった。
あんなに太陽くんを目で追っていたはずなのに。
「俺な、彼女できてん」
八重歯を覗かせ照れ笑いを浮かべる彼を見上げ、必死に頭を働かせる。
私は今まで、何を見ていたんだろう。
どうして気付けなかったんだろう。
もっと早々に分かっていれば、なんて、考えても仕方がない後悔がいくつも押し寄せてきた。
「そっか、おめでとう」
その気持ちがゼロじゃないにしろ、この瞬間ふたつ返事で祝福できる気力はないくせに口からはそう出て、半ば無理矢理笑顔を作った。
涙が零れなかったのは、きっと現実味がまだないから。
数分前のそんな僅かなやりとりが耳にこびり付いて離れない。
私は結構頑張ってきたはずだった。
体育祭のリレーのアンカーだってやったし、クラスメイトがやりたがらなかった委員だって進んで引き受けたし、定期テストの成績だって学年上位をキープしていた。
全部ぜんぶ、不純な動機。
太陽くんに褒めてもらいたかったから。
高校に入ってから初めてクラスが離れて、絡む回数は減ったんだろうけど、それでもたまに周りから付き合ってるのか勘違いされる程だった。
誰がどう見ても、当事者の私でも、太陽くんと一番仲良い異性といえば私だった。
……そりゃそうだ。こっちは中学からの仲。
太陽くんの好みに寄せてみたり、少しでも長く話ができるように早く来てみたり……まあ恋する女の子ならば、当たり前のことなのかもしれないけれど。
今日、いつも通り「一緒に帰ろう」と誘った私への返事。
ちょっと間を置いて「ごめんな」と、「あんな」と。
太陽くんは頬を赤らめた。
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作者名:ハナコ | 作成日時:2016年5月2日 23時