解けゆく心〈フィッシャーズ〉

弱い彼氏でごめんね… ページ27

歩くリハビリの練習を終えて

次は、物を掴む練習

腕はずっと動かしてなかったもんね



「では、こちらの積み木を持ってくださいね」

『は、はい…』



俺も静かに隣で見守る

恐る恐る積み木に手を伸ばすA



『あっ…』



掴んだ瞬間に、手の隙間からコロコロと床に落ちた

肘より前の方を怪我してしまったから

上手く力が入らないのかな…



『も、もう1回…』



何度やっても

一瞬掴めるだけで、床に落としてしまう



『っ…なんで……』

「焦ることありませんよ。ゆっくりでいいので落ち着いてやって行きましょう？」

『はい…』



掴めないことへの苛立ちと

首が固定されてて動きづらいことへの苛立ちが

どんどんAに募っていく



モトキ
「A、ゆっくりね」

『……なんで出来ないの……なんで…』

「無理に力を入れてしまうと痛みが走ります。落ち着いてゆっくりと」

『落ち着けるわけ…ないじゃないですか……普通に物を掴めてたのに…首も動かせてたのに…歩けてたのに……なんで…』



ポロポロと涙を流すA



モトキ
「すみません…用事があるので…」

「わかりました。お気をつけて」



"用事があるので"…

そんな理由…

嘘に決まってるじゃん…



モトキ
「ごめん……A…」



また俺が…

傷つけた…


あんな状態にしてしまったのは

俺のせい…


俺が守っていれば

Aがあんな大怪我せずに済んだ


俺が傍にいれば

Aは笑顔でいられた



Aに守られてばかりだから…

俺が弱いから…


どんどん涙が溢れてくる

こんな俺といて…

Aは本当に

幸せだと思ってくれてるのだろうか…



俺がいなければ…

Aは…


気づいた時には家に帰っていた

泣きじゃくってて、覚えてないな…



カチカチ…

俺がいなければ…！



ザシュッ！

ポタポタ……


こんなに痛かったんだね…

なんで変わってあげることが出来ないんだろう…

たった一人で…

心細かったよね…

ごめんね…

こんな俺で…

こんな俺が彼氏で…


Aをもう苦しめたくない…

俺が消えれば……

Aに笑顔が戻るかな……



モトキ
「A……」



重くなってくる頭

ドタンと床に打ちつけた


これでいいんだ…

きっと…

これ、で…

視界が暗くなっていく…



マサイ
「モトキ〜？いるか？……モトキ！？モトキ！おい！しっかりしろ！」

シルク
「マサイ！救急車呼べ！早く！」

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