先生のお気に入り

29、ナヤミゴト ページ29

　
　
　
あれからひと月ほど経つが、何も無かったかのように、藤ヶ谷は保健室へやって来る。



相変わらず、時折保険室に登校しては気紛れに授業を受け、またここへ帰ってきたり来なかったり。



藤ヶ谷なりの平常運転で、変わった様子は無さそうだった。



藤ヶ谷を傷付けてはいなかったんだと、思い込みたい自分がいる。



それは日を追って確信に変わる。



そうじゃなければ、藤ヶ谷は俺を避けていたと思うから。



良く考えてみれば、性的嗜好とも言えるかなりディープな個人情報を、藤ヶ谷は俺にカミングアウトした事になる。



自分の性的嗜好が向かう相手も、具体的に。



俺は立場上藤ヶ谷の想いを、キッパリと拒否してしまった。



それより、藤ヶ谷の「男女の肉体関係気持ち悪い問題」は、どうなったんだろう。



藤ヶ谷の中で一応の解決は見たのか。



そのままの自分自身を受け入れて、少しは楽になったのか。



なかなか訊けずにいるけれど、藤ヶ谷は切羽詰まったような顔はしていない。



俺に触れもしなかった。



だから、夏が近付いて来たせいもあって、俺はだんだんと無防備になり油断をしてしまっていた。
　
　
　
　








K「朝からあっちぃなぁ。」



梅雨も明けてセミがうるさい。



余計暑い。



勤務時の服装に関して、ファッション性はほとんど考えてない。



思わぬ理由で汚れる事もあるし、清潔第一だから、とにかく毎日ジャブジャブ洗える物。



緊急の場合に備えて動きやすさ重視。



本当は夏になったらTシャツとハーフパンツで過ごしたいくらいだが、学校の規定でそこまで緩い服装は好ましくないとされている。



ちゃんと襟付きの物を着るという規定を、守らないといけない。



私立校には独自の考え方があるようだ。

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