愛され屋

23、カーテン(side-K) ページ29

　
　
　
高温サウナに入った後、敢えて水風呂に入らすに屋上に出てみた。



風が気持ちイイ。



この季節寒風が吹き付けてくる事は無いが、ビルの屋上に吹く風は、体の熱を収めるのにじゅうぶん心地良かった。



何と言っても眺望が良かった。



向かい側がエートル・エメのオフィスだ。



2回しか訪れる事の無かった、あの部屋。



この時間もまだ藤ヶ谷は、あそこにいるんだろうか。



肩までお湯に浸かっていると見えないが、上半身をお湯から出したら、窓が良く見えた。



あそこを訪ねる度カーテンは全開で外が見えていたのに、今日は遮光カーテンが引かれている。



客が来た時以外は開けないのかな。



最上階の景色は、ある意味客への「見せ金」みたいなモンだからな。



あわよくば姿が見られるかと、淡い下心が無かったとは言わない。



このサウナがやたらと気になっていたのは、エートル・エメの向かい側だったから、というのも否定しない。



しかし今夜はカーテンの隙間から細く灯りが漏れているだけで、中を窺い知る事は出来ない。



サウナと内風呂と屋上の展望露天風呂を何ラウンドか回って、屋上に来る度藤ヶ谷第7ビルをガン見していたが、カーテンがチラリと揺らぐ事も無く、やがて漏れていた灯りが消えた。



K「チッ！」



一旦オフィスから目を離した。



粘って粘って空振りかよ。



K「ええ？！」



次に目を遣った時にはカーテンが開け放たれている。



こんなに長時間張っていたのに、一瞬の藤ヶ谷の姿を見逃していたなら、悔しい。



オフィスは既に暗くなっていたが、窓際のデスクのライトだけが灯っていて、その周りを照らしている。



藤ヶ谷と初めて会った時と同じように生けられた真っ赤なバラが、綺麗に浮かび上がっているのが見えた。



あのバラが藤ヶ谷だったら良いのに。



やっと幕が開いた舞台に立ちスポットライトを浴びる主役は、紅バラの化身。



K「フハハ、俺キンモ〜っ」



自分にストーカー気質と妄想癖があるとは思わなかったぜ。

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