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一年前__。
蝉の声が五月蝿く響く夏、ESビルのレッスン室ではHiMERUが肩にタオルをかけ汗を流しながらダンスの練習をしていた。スマホから鳴る音楽を流しては止め、巻き戻してはまた流す。苦手な振りなのか、何度も何度も同じ場所を練習している。いつも完璧に本番をこなしているのはこういった努力の産物なのか。努力は人を輝かせるというが、今のHiMERUはより一層輝きを放っているように見える。
HiMERUさんのことが好き。そう気づいたのはいつだったか。
誰にも見られていないところで努力し続けファンへは完璧な自分だけを見せる。しかしプロデューサーである自分に対してはたまに甘えを見せてくれる。そんなことをされれば誰だって気になってしまう。HiMERUが自分に弱さを見せるたびに感じる優越感は次第に膨れ上がり、ドキドキと高鳴る胸は自分が恋をしているのだと気づくのに十分すぎるほどだった。
しかしあくまでも彼はアイドル、そして私はそんなアイドルを支えるプロデューサー。決してあってはならない恋だ。誰にも知られないように、そっと心の奥底にしずめた。
しかし、そうして心に被せた蓋は、彼の一言によっていとも簡単に崩れてしまった。
「言葉にすることは大事です。Aも伝えそこねていることがあるなら伝えるべきですよ、HiMERUはそれで一度後悔したことがあります。AにはHiMERUのようになってほしくないのです」
どういう意味だろうか。彼が私の気持ちに気づくはずがない。きっと弟さんのことで何かあったのだろう。だから私のことも心配してくれている、彼は優しいから。でも、もしも、私の気持ちに気づいているのなら。そう考えるともう止められなくなっていた。
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作者名:とわち | 作成日時:2023年1月31日 11時