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「ハッ、口悪っる......」
兄ちゃんは苦虫を嚙み潰したように口をゆがめながら笑っている。
「いいか？日本サッカーの組織力は世界一だ。他人を思いやる国民性の賜物と言える。でもそれ以外は間違いなく二流だ」
『ガチで......意味不明』
「お前らに訊く。サッカーとは何だ？」
『サッカーとは......？』
じんわりと、手に汗が広がる。こんなの間違ってる。
暑さのせいだと、自分に言い聞かせぐっと拳を握る、12月の真冬。
「11人で力を合わせて戦うスポーツ......？「絆を大事に」？「仲間のために」......？」
「違うんだよ。だからこの国のサッカーはいつまで経っても弱小なんだ......。教えてやる、サッカーってのはな......」
「相手より多く点を取るスポーツだ」
「点を取った人間が一番偉いんだよ。仲良し絆ごっこしたいならファック・オフ」
「......不快です 撤回して下さい......」
「本田選手や香川選手......他にもいっぱいいる......彼らは僕のスターです！ あんた間違ってるよ」
「......ん？本田？香川？んー？」
「そいつらってW杯優勝してなくない？じゃあカスでしょ。世界一になる話してんだけど？俺」
頭が痛い、こいつのせいだ、絵心甚八......。自己中傲慢ヤローめ。
常識的な脳をしている俺は、絶え間なく語られる多大で非常識な情報に耐え切れず頭痛を起こした。
あまりの酷さに思わず、耳を塞いでしゃがみこんでしまう。
「A？おま、大丈夫！？」
静まり返っている空気に気を遣ってか、兄ちゃんは小声で心配してくれている。
大きく首を縦に振って、場の空気を壊さないよう努める。
「世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない」
ゆっくりと深呼吸しながらのろのろと立ち上がる。
「この国に俺は、そんな人間を誕生させたい」
みんなして絵心甚八の話にのめり込み、息をのんでいる。狂った希望を見せられている、それは、俺も＿＿＿
『兄ちゃん、俺＿＿＿』
「そんなイカれた人間だけ、この先へ進め」
どんな人間かなんて知らない。聞いてない。でも俺は、
【俺はストライカーだ】
背筋が凍るような風が吹いた。強い“エゴ”が俺の左を通過した。
それに続いて、300人が吹っ切れた。
クソ......！！行ってやるよクソがぁ！
俺も行く！
俺もだ！
俺も！
絵心甚八によって引き出された、まだ小さきエゴ。それは＿＿＿
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作者名：とうしろ | 作成日時：2022年9月4日 1時
