喪失ー江戸川乱歩 ページ46
※主人公は異能力者です。
忘れてはいけないもの
それは、恋人の名前と私の異能力
朝、夢見る事なく目を覚ます。そしてテーブルの上に置かれたしわくちゃな置き手紙と日記帳とペンを見て、私の昨日の事を思い出そうとする。
けれど、何も思い出せなかった。記憶に残っているのは自分と恋人の名前と、私の持つ異能力についてだけだった。
自分の家族の名前が思い出せず、友達も居たはずなのに顔も名前も、何もかも思い出せなかった。
しわくちゃな手紙には、恋人の名前と私の異能力について書いてあった。
「そっか、記憶・・・ないんだ。」
きっと何度も記憶を無くしたせいで、怒りも悲しみもなくなったのだろう。心は忘れていても、体はきっと覚えている。
だからか、この部屋には最低限の家具しか置いていなかった。
私は、恋人の所へ行く事にした。どちらにしろ、私の一日は彼がいるからこそ成り立つのだ。名探偵である江戸川乱歩と居る事で、私は記憶がなくとも生きていける。
私は探偵社へ向かった。なんという名前の探偵社だったのかも忘れていたが、体は探偵社への道を覚えていた。
あの手紙にも、武装探偵社と書かれた探偵社への地図があった。
私はその探偵社に働いていたらしいが恋人の助手をしていたのは覚えている。どうやら、恋人に直接関わる事に関しては覚えているようだ。
探偵社の中へ足を踏み入れば、中には記憶にない人ばかりだった。
「あ、の・・・すみません」
「遅いっ!」
部屋の中で、小さな声でしか発せられなかった言葉を拾ったのは恋人だった。
「乱歩さん・・・あの」
記憶がない事を彼に話そうとしたけれど、思いとどめた。
「知ってるよ。記憶がないってことぐらい。」
「・・・ごめんなさい。」
棒付きの飴を舐めながら、記憶がないことを気にもとめない恋人に、私は不安しかなかった。
記憶がない事を、それを何とも思っていないから、それは想いがなくなったのではないのではないだろうかと考えてしまい、不安になる。
「別に気にしてないからいいよ。そういう異能力だからね。」
「・・・はい。」
そう、私の異能力は発動すれば記憶を失ってしまう。彼の居ない間の事件は私が代わりにやる事になっている。けれどほとんどは未解決事件だったからか、私の記憶がなくなるのが早いのはしょうがない事なのだ。
「君の異能力の欠点は、記憶をなくすこと。それがなかったら良かったのにね。」
そう言う名探偵の顔は何故か笑っていた。
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作者名:翼 | 作成日時:2016年6月25日 8時