五話 ページ6
兼さん、堀川達呼んでくるんだろうな…早く涙止めなきゃ。必死に目を擦って涙を止めようと試みるけど一向に止まらない。
再びドタドタと床を走る音。今度は数人の足音が聞こえる。早く止めなきゃ、足音が近くなるにつれ私はあわあわし出す。スパーンと勢いよく開けられた。
「A……!!」
堀川だ。泣きそうな表情をしてゆっくり私に近づいてきた。頬を触られると、襖の音でびっくりして止まっていた涙がまた溢れ出てきた。
「ごめん…ごめんね、A…」
ぎゅうぅぅと強く堀川に抱きしめられる。……暖かい。
私も堀川の背中に手を回しぎゅっと抱きしめ返した。
「兼さん…運んでくれてありがとう」
堀川を抱きしめたまま、安堵の笑みを浮かべる兼さんにお礼を言った。
「あん時起きてたのか?」
「ちょっと意識はあったけど、すぐ眠っちゃった」
「堀川、A嬢を診察したいんだが…」
一向に私を離そうとしない堀川に呆れた表情を浮かべる薬研くん。
「堀川〜〜薬研くんが診察できないよ」
離して? と背中を二回叩くけど離れない。寧ろ抱きしめる力が強くなってる気がする。
「……っ! い…たっ」
堀川の手が腰に当たり、痛みが再び走った。バッと私から離れる堀川。さっきまであんなに離そうとしなかったのに。ふふと笑みがこぼれた。
「ごめん…!」
「もー、堀川謝ってばっかりだね」
「んじゃ、診察するぞー」
待ってましたと言わんばかりに堀川と私の間に入って聴診器を手に持つ薬研くん。
「……脱いでもらってもいいか?」
「うん…」
寝巻きのリボンを取り、脱ごうとした時二人に目がいきピタリと手が止まった。薬研くんは分かるよ診察してくれるんだから。でも
「堀川と兼さん……部屋から出てほしいな〜なんて…」
見られたくない。薬研くんにだってほんとは見せたくないのに…堀川に幻滅されたくない。
「悪いな、A嬢。二人にはここに居てもらう。
もし大将が戻ってきたらどうする。前を向いてる俺じゃ手も足もでない。」
「……わかった」
主様が戻ってくる、そう聞いた途端身体が震え寝巻きを脱ぐのにも手が震えて上手く脱げなかった。
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作者名:ましろ抹茶 | 作成日時:2021年10月7日 23時