【HQ】精神安定剤 【稲荷崎】

【3 レキソタンとセニラン】　 ページ10

「なぁ、角名(スナ)」


二時限目の体育の前。

男子更衣室で体操服に着替えていると、治が上半身着替えながら角名の所にやって来た。

片割れと容姿はそっくりだが、落ちついた雰囲気や言葉は似ても似つかない。




「何、治。 おにぎりなら、教室だけど」

「いや、おにぎり欲しいわけやないねん。Aの事で、聞きたいことがあんねんけど」




そう言った治の表情に、少し焦りの色が浮かんでいるのを角名は見逃さなかった。

Aの事を気にしているのは、角名だけではない。

北はもちろん、宮兄弟もAの事は気にしており好んでいるのだ。


そして、先程の角名の言動は一瞬で校内に知れ渡っていた。

それもそのはずだ。廊下で堂々と、しかも多くの生徒がいる中で起きた事だったのだから。




噓だとは、思いたかった。そんな事をしなさそうな角名だからこそ、どうせ周りが作った嘘なのだろうと。



でも、2人が教室に入ってきた時に感じた雰囲気に、嘘ではなく事実だと確信した。

角名の満足したような表情と、Aの赤みを帯びた頬がマスクの隙間から見えたこと。


その2人の様子を見た時に治は、黒い感情が自分の心の底からふつふつと湧き上がってくるのを感じた。



聞こうとしたが直ぐに授業が始まってしまい、聞けずにいた。

そして今、ここで聞くしかないと思った治は角名の所に着替えの途中で聞きに来たのだ。









＿＿＿何で、Aに ”キス” したん

ー→←ー

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す